今回ご紹介するのは、幾多の困難を乗り越えて開業した飲食店。
お店の開業を志す方にとって、自然と力を頂けるようなストーリーです。
その話の舞台は、阿佐ヶ谷の「Meat Meat Meet(ミートミートミート)」。
3つのミートはそれぞれ「肉」「出会い」「(大事な芯を)捉える」の意味が込められています。
お店のオープンは2017年3月で、場所は阿佐ヶ谷駅北口から徒歩5分。
個性的な飲食店が立ち並ぶ商店街の一角に新しく誕生した、明るい雰囲気のお洒落な肉バル。
オーナーの谷岡夫妻はどちらも飲食歴15年以上のスペシャリスト、その料理の品質は言うまでもありません。
地元仙台の強みを活かして仕入れた銘柄肉の「仙台牛」「宮城野ポーク」「森林どり」が主力。
お二人の豊富な経験を元に、ジャンルや技法を超えた手作り肉料理が人気のお店です。
前評判の高さからオープン初日からほぼ満席でしたが、現場に混乱はありません。
キッチンもホールも、手慣れたもの!
来店客の満足度もすこぶる高く、オープン5日目にして早くも繁盛店の兆しが見え始めています。
まさに「順風満帆」な船出!!
とはいえ実は、ここに至るまでには並々ならぬ困難と苦労がありました。
独立開業目前に起こった、東日本大震災
飲食店開業を夢見て、地元仙台の繁盛店で順調にキャリアを積み上げてきたお二人。
飲食店で様々な経験を積み、調理や接客のスキルを磨き、2003年頃には店長や料理長など、責任のあるポジションで店舗全体のマネジメントを任されるまでに。
この頃から「自分のお店を持つ」という目標を見据え、飲食店経営に必要な知識・スキルを積極的に、かつ、計画的に習得していきました。
店長業務の傍ら、コンセプト作り、レシピの開発、売上の上げ方、仕入れの管理、集客方法やリピーター作りのノウハウなどをマスター。
そしていよいよ準備が整い、独立開業の一歩目を踏み出そうとしたその矢先・・・
2011年3月11日、東日本を襲った未曾有の大震災。
東北を震源とする巨大地震は、お二人の地元仙台にも多大な被害をもたらし、
独立どころか、今の飲食店で働くことすら困難な状況に。。
苦渋の決断ではありましたが、目前に見えていた地元・仙台での独立開業を断念。
お二人は再出発を図るため、東京への移住を決意します。
東京・阿佐ヶ谷からの再出発
当時奥様が勤務されていた会社の勧めで東京・阿佐ヶ谷に生活拠点を移し、2011年3月末から東京でキャリアを再スタート。
これまで培ってきた経験と実績を認められ、お二人とも別々の店舗で店長・料理長として迎えられました。
慣れない生活と重圧に耐えながらも、不屈の精神で、さらなるキャリアアップを実現されたおふたり。
売上記録の更新、アメリカ・ロサンゼルスの新店舗立ち上げ、エリア統括マネージャーを勤めるなど順調そのもの。
あっという間に、東京への移住から5年が経ちました。
多くの経験を重ね、店舗運営に自信がついた谷岡ご夫妻。
かねてからの目標であった独立開業に向けて、再び大きく動きだします。
物件探し・資金調達・内装工事。次々に降り掛かってくる困難。
当初は東京の経験を手土産に、再び地元・仙台に戻って、自分たちの店を持つことを考えていました。
しかし、ほぼ契約が決まっていた仙台の物件が諸事情でなんと白紙になったのです。
時に、運命とは残酷なもの。
震災がようやく落ち着いたにも関わらず、物件取得できなかったことが理由で、仙台での開業を断念せざるを得ない状況になってしまいました。。
東京で開業することは想定していなかったため、困り果ててしまうお二人。
改めて東京で物件探しをスタートしたものの、資金的な問題もあり難航。
私がおふたりに出会ったのは、2016年10月。
先輩経営者からのススメで、当社が主催する「物件の探し方」についてのセミナーに参加されたのがきっかけでした。
お二人は貪欲に、開業に役立つことを少しでも掴もうと、資金調達方法や内装会社の選び方など様々なテーマのセミナーに参加。
準備を進めつつ、一番のハードルだった融資の獲得に向け動き出しました。
これまでのご経歴、現在の保有資金、お店のコンセプト、希望の立地条件等を詳しくヒアリング。
開業時の投資計画・収支計画を見直してひとつひとつ精査していくところからスタートしました。
まず、現実的なラインで獲得可能な融資金額を算定し、大枠の開業予算を決める。
その予算から逆算し、探すべき物件のスペック(家賃や坪数など)を明確にしていくことに。
日本政策金融公庫の新創業融資は、最大で自己資金の9倍まで借りることができるとされています。
しかし、これはあくまで制度のルール上だけの話。
実際は、自己資金の2倍~5倍ほどの申請額でないと難しいことが多いのです。
日本政策金融公庫もボランティアでお金を貸してくれるわけではありません。
『融資を申請した人が、きちんと返済してくれるどうか』を厳しくみています。
どのぐらい借りることができるかは、開業する業態の経験の有無や、自己資金の貯め方・量によって異なります。
(※個々により事情も異なるため、開業資金の無料カウンセリングを受け付けております。)
幸い谷岡さんの場合、プラスの材料が多く見つかりました。
お2人の飲食経験が豊富なこと。
スタッフを雇わないため人件費が抑えられることなど。
しかし、自己資金の都合上、予算には限りが。
谷岡さんが考えるコンセプトの実現には、「かなり」条件の良い居抜き物件を見つける必要があるという結論に至りました。
あえて「かなり」と申し上げたのは、理由があります。
全ての条件を満たす物件など、もしかしたら見つからないのではと思ったほど難しい条件だったからです。
その後、谷岡さん夫妻は物件を毎日チェック。
気になる物件があれば間をおかず、見つけたその日に内覧や現地調査。
しかし、客層や立地環境がコンセプトに合わなかったり、予算内に収まらなかったりで、なかなか条件に合う物件が見つかりません。
1ヵ月、2ヵ月と時間だけが無情に過ぎていきます。
それでも、なんとか良い物件を見つけたい・・という思いで、物件情報を探し続けました。
ある日、谷岡さんから私に連絡が。
「ちょっと気になる物件があるので、一緒に見に行ってほしい」
ようやく見つけた理想の物件は、なんと予算オーバー
谷岡さんの東京での出発点、阿佐ヶ谷駅近く。
土地勘もあり、1階路面店で賃料等の条件も、谷岡さんの理想に近い物件。
しかしたったひとつ、大きな問題が。
それはこの物件が「居抜き」ではなく「スケルトン」である、ということ。
スケルトンとは、コンクリート打ちっぱなしの何もない状態をさします。
スケルトン物件の内装工事は、居抜きと違ってすべてゼロから。
基礎設備はもちろん、床・壁・天井等の仕上げや看板工事など、1坪当たり40~50万円程度の工事費用がかかります。
10坪程度のお店でも500万円の投資コストがかかるのです。
居抜き物件であれば前のお店を上手くリフォームすることで開業コストを大きく抑えることもできますが、スケルトン物件ではそうはいきません。
これでは、明らかに谷岡さんの予算をオーバー。
私は正直いうと当初は、
「この物件で谷岡さんの予算内に収めるのは、ほぼ不可能です。残念ですが、ここは諦めましょう。」
とお話しするつもりでした。
物件取得費・内装工事費を捻出できればそれで良い、というわけではありません。
備品や食材の仕入れ、その他の諸経費、運転資金まで考えると、計画していた予算内にはどうやっても収まりません。
谷岡さん、、大変申し上げにくいのですが…
どうしてもこの物件でやりたいです。いくらまで自己資金を増やせばできますか?
そうですね…トータルでこれぐらい必要ですから、谷岡さんのご経験やこの物件の立地状況を加味すると、あと〇〇万円ぐらい増やせれば、可能性が出てきますね
分かりました。少し時間を下さい。なんとかします。
幸いこちらの物件の所有者(家主)は、谷岡さんのお知り合いだったため、物件契約は少し待ってくれるとのこと。
谷岡さんの言葉を信じて、私も待つことにしました。
2016年の11月末、もう年の瀬がそこまで迫っていました。
飲食経験豊富な2人だからこそ、取れた秘策
谷岡さんは「なんとかします。」と言っていたものの、そんなに簡単に増やせる額ではないので少し不安でした。
準備が整ったらすぐに融資申請できるように、申請資料を準備をしながら連絡を待つこと2ヶ月・・・
なんとかなりました!
にわかには信じられなかった私(←谷岡さんには内緒)は、直接お会いし詳しい状況をお伺いすることに。
お会いして確認すると、確かに自己資金が目標金額に達しています。
「どんな錬金術を使ったのか?」と不思議に思い、聞いてみると、、
年末はどの飲食店も繁忙期で忙しいので、知り合いの飲食店に短期でヘルプに入ったり、ケータリングのお仕事をもらったりして、私も妻もほぼフルに働いていました。
実はこのシーズンはちょっと時給もいいんですよ笑
なんて笑いながら教えてくれました。
なるほど。
お二人とも飲食経験が長く、キッチンもホールも何でも対応できる能力があるからこそ、できる方法ではありますが・・。
そのケロリとした表情からは読み取れませんが、おそらく、ほとんど休みも取らずガムシャラに働かれたのでしょう。
そうでなければ、計算が合いません。
実は、この後にも度々感じたのですが、谷岡さんご夫婦は類まれなる努力家でありながら、それを決して表に出さないように振る舞っています。
どんなに大変でツライ時にも、人と接する時には、いつも笑顔。
困難な局面に遭遇しても、決して悲観せず、常に前を向いて不断の努力をする「心の強さ」を持っているのです。
その「強さ」に触れた時、私の不安や心配は一気に吹き飛び、私の抱いていた”疑念”は「谷岡さんなら大丈夫!」という”確信”へと変わりました。
3月11日。そのオープン日に込めた想い
普通に考えれば、かなり難易度の高い融資申請も、持ち前の”明るさ”と”強さ”で見事にクリア。
内装工事も業者に丸投げではなく、天井や壁の塗装など、できるところは自分たちで手がけることでコストダウン。
スケジュールに遅れが生じていると見るや、寝る間を惜しみ作業を進めていきます。
(参考記事)店舗の内装工事を自分で行う時(DIY)のメリット・デメリットと注意点
通常なら2ヵ月近く掛かるスケルトンからの開業準備をおよそ1ヵ月で終えたのですから、その忙しさたるや尋常ではなかったハズ。
それでも強行したのは、ある強い想いがあったから。
どうしてもこの日に開業したかったんです。
と谷岡さんがオープン日に選んだのは、2017年3月11日。
そう、谷岡さんご夫婦の運命を大きく変えた「あの日」からちょうど6年。
この日をオープンに選んだ理由について、お二人はあえて多くを語りません。
しかしそこには私には想像もできないような様々な”想い”も”願い”も込められているのだと思います。
谷岡さんご夫婦が歩む道には、これからも困難が待ち受けているかも知れません。
でもお二人ならきっと、どんな困難も”笑顔”で乗り越えていくことでしょう。
お店を訪れるお客さんはそれに気づきもしないでしょうし、私はそれで良いのだと思います。
谷岡さんご夫婦の想いが詰まった「Meat Meat Meet」が、いつも沢山の笑顔で溢れ、多くの人に元気を与えるお店であり続けますように!
■店舗情報
店名 | Meat Meat Meet(ミート ミート ミート) |
TEL・予約 | 03-6886-4518 |
住所 | 東京都杉並区阿佐谷北1-27-5 |
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文中のリンク先まとめ
(参考記事)店舗の内装工事を自分で行う時(DIY)のメリット・デメリットと注意点
1975年生まれ。東京都出身。
東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど、多岐に渡る豊富な経験を持つ。
実務経験15年、1000店舗以上の支援実績を誇る立地戦略・物件開発のスペシャリスト。長年の現場経験に基づいた的確なアドバイスは、個人からチェーン企業に至るまで、多くのクライアントから絶大な信頼を集めている。