大森
飲食店での開業をお考えの方の中には、ご自身の住んでいらっしゃる街や生まれ育った街、いわゆる「地元」での開業を検討されている方も多いと思います。
地元での開業の場合、土地感があるため商売のイメージが湧きやすい、ご自身の人脈を活用した集客が可能。などのメリットがありますが、一方で地元開業ならではの注意点もあります。
今回はご自宅近くで開業された「フレンチ食堂 翠藍朱(すいらんしゅ)」の篠原オーナーのインタビューを通じて、地元開業で成功するためのポイントや注意点などを見ていきましょう。

どんなお店?

(左)篠原さん (右)開業コンサルタント 金子 圭太
金子
今日は、2024年の11月にオープンされましたフレンチ食堂 翠藍朱さんにお伺いしています。
オーナーの篠原さんです。
篠原さん
篠原です。よろしくお願いします。
金子
場所が能見台で、駅からすぐですよね?
篠原さん
そうですね、2分ぐらいですね。
金子
お店の名前「翠藍朱(すいらんしゅ)」の由来を教えてください。
篠原さん
家族の名前から一文字ずつ取って並べた、シンプルなお店の名前です。翡翠の「翠」、藍色の「藍」、朱色の「朱」と、すべて家族の名前から名付けています。
最初はフランス料理店らしい名前をいくつか候補に挙げていたのですが、どうもしっくり来なくて。
自分が好きな「コト」や「モノ」は何だろうと原点に立ち返った時、真っ先に娘の名前が思い浮かびました。そこで、翡翠の「翠」と藍色の「藍」で「翠藍」を候補にしたんです。でもそれだけだと締まりがなかったので、妻の名前にある朱色の「朱」をつけて「翠藍朱」に決めました。

家族からは「変な名前」と言われますが、お客様も最初「一体何のお店だろう?」と気になって入ってきてくださいます。
僕はお客様とお話しするのが好きなので、「お店の名前、何でこんな名前なの?」と聞かれることが、会話のきっかけ作りにもなっています。
そこでちょっとお話しさせてもらえるキッカケ作りにもなってるんで、僕の想いをわかっていただければ、お客さんは「家族想いなのね」って
みんな言ってくれるんで、それはそれでいいかなと思っています。

金子
なるほど、良いコミュニケーションのきっかけですね。

創業までの経緯

金子
飲食業はずっと経験されてきたのですか?
篠原さん
そうですね。専門学校を出てからずっと飲食の世界です。最初はホテルに勤務して、その後三重県でヘルシーなフランス料理を学びました。関東に戻ってきてからは鎌倉での勤務が一番長く、料理長も務めさせていただき、現在に至ります。

金子
飲食業に携わった頃から、独立は考えていたのでしょうか?
篠原さん
「どうせやるなら独立開業か、ホテルの総料理長になりたい」という漠然とした目標はありました。当時の僕がイメージするホテルの総料理長は、厨房を悠然と見回るような「左団扇でいいなぁ」という姿で、そこに憧れを抱いていたんです(笑)。

でも、時代の変化とともに、料理長も第一線でしっかり仕事をしないと通用しない世の中になりました。
僕がかつて憧れた「左団扇の王様」のようなポジションがなくなったのなら、「自分で独立開業して、好きな料理を作っていた方が良いのではないか。
成長するにつれて、そう考え方が変わっていきました。

地元(住宅立地)での開業について

金子
独立を考える中で、地元開業を意識したのはいつ頃からですか?
篠原さん
最初は、長く勤務していた鎌倉も良いなと思い、物件を探しました。でも、紹介される物件の家賃がべらぼうに高くて「これはいかん!」と思って、生活拠点を中心に考え、少しずつ希望範囲を絞り込んでいった結果、「やっぱり地元だ!」と思い至りました。
金子
私たちにご相談いただく方の中にも「地元でやりたい」という方は結構いらっしゃいます。
ただ、希望の駅をピンポイントで絞ってしまうと、なかなか良い物件が出てこないため、現実的にはかなりハードルが高いんですよね。
篠原さん
そうですね。地元のネットワークを使わないと、「あそこが空くみたいよ」という情報が真っ先に回ってきません。
ネットに情報が出てからでは遅いことも多いので、地元の不動産屋さんや知り合い、さらには同級生のお父さん世代のネットワークまで頼って、物件情報の包囲網を張っていました。

当社との出会いについて

金子
ご自身で動かれていた中で、当社に相談しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
篠原さん
スマートフォンで飲食店向けのセミナー情報を調べていたときに見つけました。
自分の中で「こういう物件が良い」という条件はある程度固まってきていたのですが、「本当にこれで良いのかな?」「どうなんだろう」と立ち止まってしまう部分があったんです。
そんな時、「無料なら一度セミナーを受けてみよう」と思いました。

専門学校時代に通い慣れた池袋が会場だったこともあり、懐かしさもあって申し込みました。
実際に無料セミナーを受けてみると、自分が今まで進めてきた方向性は「これでいいんだ」と確認できました。
そこで、「この人に個別で相談してみたいな」と思い、個別相談を申し込みました。
初回の面談は1時間半ほどだったと思います。これまでの経歴をお話しし、考えていたお店のコンセプトをお見せしたところ、「ここが少し弱いですね」と的確なアドバイスをいただきました。

金子
ご自身で考えたコンセプトでしたが、客観的に見ると少し弱い部分がありましたね。その後、当社の開業サポートをご依頼いただいた決め手は何でしたか?
篠原さん
自分の中で目星をつけていた物件の譲渡金額が高かったので、専門家の意見を聞きたかったんです。プロからの「ひと押しが欲しかった」という感じですね。

金子
そこから一緒にコンセプトをブラッシュアップしていきましたね。
僕は一緒に作ってて、やりやすかったんですよ。
なぜかっていうと、やりたいことが明確にポンポンと出てきたこともあり、考えをまとめやすかったのだと思います。
そこが出てこない方だと、掘り起こすってところから入るんですけど。
篠原さん
ありがとうございます。漠然としてお店をやるのは、ちょっと危険だなっていうのはやっぱりあったんで。
金子
篠原さんの中にあったアイデアを、客観的な視点で分かりやすく整理させていただいた形ですね。そこがしっくりきたからこそ、計画が前に進んだのだと思います。

物件の契約に至るまで

金子
コンセプトが固まってからは、物件が決まるまであっという間でしたね。
篠原さん
早かったですね。相談する前から個人的にこの物件を見に来ていて、自分の中では「ココがイイ!」と決めていたのですが、あと一歩が踏み出せずに足踏みしていました。
金子
最初にお話を伺った時、実は僕も「ココしかない」と思っていました。
ただ、開業される方にとって「物件の契約」は一大決心ですよね。
篠原さん
いやぁもうその〜『一大事』でしたね。

金子
ですよね。
篠原さん
僕の中では、居抜き物件の譲渡金は200〜300万円程度だろうというイメージがあったのですが、ここは約600万円でしたから。
その金額にビビってしまい、どうしていいか分からなくなっていました。
そこで本格的にご相談したところ、ポンと背中を押してくださって。

「よーし!いっちゃおう!」と決断できました。そこからはトントン拍子でしたね。

金子
私としても、「こういうお店を、できれば地元でやりたい」というご希望を聞いていましたから、同じ駅でこれほどの条件の物件はすぐには出ないと考え、「これを逃したらないな」と瞬間的に判断しました。でも、なかなか決めきれないご様子だったので、「じゃあ、一緒に見に行きましょう」と現地に同行したんです。
篠原さん
あ、そうでしたね(笑)
金子
実際に物件の中を見せていただくと、厨房設備もしっかり残っていて、あまり改装しなくても使えそうでしたね。
譲渡金は確かに高いけど、追加の工事費用が抑えられるので、トータルで見れば開業費用は抑えられると判断しました。
開業の経験値が浅い方だと、どうしても「譲渡金が高い」というように一つひとつの項目だけで見てしまいがちです。ビジネス全体で考えることが大切ですし、結果、低投資で抑えられるなって思ってたんですよ。
篠原さん
いやーホント、結果、低投資で済みましたんで(笑)

よかった~

どうしても運転資金は1円でも多く残しておきたかったので。内装業者さんもすべて地元の方にお願いしたのですが、価格を抑えて対応していただき、本当にありがたかったです。

金子
良い物件を決められる状態をしっかりと作れたことが、今回の最大の勝因だったと思います。

地元開業のメリット・デメリット

金子
地元での開業は、希望するエリアがピンポイントになるため難易度が高く、「やりたくてもできない」人が多いのが実情です。そんな中で決断し、地元での開業を実現されたわけですが、実際にやってみて「地元で良かった」あるいは「逆にキツイな」と思うことはありますか?
篠原さん
絶大なメリットだと感じるのは、宣伝広告費がまったくかからないことです。

実は、オープン日を明確に告知していませんでした。2024年の11月13日にオープンしたのですが、表の看板には「11月オープン」としか書いていなかったんです。
でも、知人のおばちゃん一人に「たぶん13日にオープンするよ」と伝えたら、いつの間にか「あそこ、13日にオープンするらしいわよ」と町中に噂が広まっていました。

僕はひっそりとオープンして、徐々にお客様が増えていく緩やかなスタートを想定していたのですが、初日からいきなり満席状態になって驚きました。リアルなクチコミの力が本当に強い世界だと実感しています。
ネットのクチコミも重要ですが、地元開業においては、ご近所のリアルなクチコミの方が影響力は大きいかもしれませんね。

金子
知り合いが多いからでしょうか?
篠原さん
たぶんそうだと思います。あそこの店主は、あそこの中学校らしいわよとかそういう噂が出回るみたいで。
たまにお客様で「実は中学3年の時、同じクラスだったのよ」っていう人がいたりとか、同窓会みたいな感じになったりとか、その中学校とかの同級生が家族連れてきてくれたりとかして、そこからどんどんお客様の輪が広がっていきました。こういった「つながり」は本当に大切だと感じています。
金子
これから地元で開業したいと考えている方に、アドバイスはありますか?
篠原さん
1年経って思ったのは、繁華街ではないので、どうしても「すごく暇な時間帯」が生まれるということです。ですから、「今日はお客様がゼロだ…」という日を作らないために、いかにクチコミを強化していくかが重要ですね。「今日暇でしょ〜」と気軽にフラッと立ち寄ってもらえるような関係性をいかに築くか、常に気を配りながらお客様と接しています。
金子
それでも、トータルで見ればしっかりと経営が成り立っているわけですよね?
篠原さん
はい、成り立っています。
金子
オープン当初はクチコミの効果でロケットスタートとなり、僕たちがお伺いしようとしても「予約でいっぱいです」という状況でしたね。
篠原さん
あの時は忙しすぎて、本当に疲弊していました。一旦落ち着いた頃に、ようやく来ていただけましたね。
金子
現在はランチもディナーも賑わっていますか?
篠原さん
相対的な人数で言うと、やはりランチがメインですね。お客様の層としては50代〜60代以上のマダムたちがランチタイムにたくさん来てくださいます。やはり住宅街なので夜に出歩く方は少ないですね。売上の基盤はランチで作り、夜に数組のお客様が入ってくれれば、トータルで利益が出せるという形になっています。
金子
住宅街における個人店の王道とも言える、理想的なスタイルですね。
篠原さん
ですね。

当社のサポートについて

金子
当社の開業サポートをご利用いただいた率直なご感想をお聞かせください。
篠原さん
背中を押していただき、本当に感謝しています。実際に経営してみて痛感したのですが、開業において一番重要なのは「決断力」なんです。

最初の一歩を踏み出す決断ですね。
お店をオープンしてからも、決断を迫られる場面が次々とやってきます。その決断が遅れると、お店全体の動きも鈍くなってしまうと分かりました。だからこそ、あの時相談して本当に良かったと思っています。
僕にとって最大のネックは「600万円の譲渡金」でしたが、今振り返ればそれほど高いハードルではなかったと感じます。お二人のサポートがなければ、あの壁は乗り越えられませんでした。

金子
トータルで考えるってことですね
篠原さん
そうですね
金子
やっぱりオープン後も、日々決断の連続ですか?
篠原さん
ええ、決断の連続です。
金子
決断が早いと、結果が良くても悪くても早く答えが出るので、もしうまくいかなくてもリカバリーがしやすいんです。お店を長く続けている経営者の方は、皆さん決断が早いですね。
まだまだこれから構想は続きますから。
篠原さん
第一目標は10年。

いやぁでもこの間、飲食店の生存率ってのをネットで見てたら、10年経ったらもう数パーセントじゃないですか。こわ〜っと思って。

でも、真面目にコツコツとやっていけば、決してレッドオーシャンではなく、ブルーオーシャンになると私は信じています。

金子
挑戦の連続ですね。先日、10年前に開業をお手伝いさせていただいたオーナーさんとお話しする機会があったのですが、「いつ頃軌道に乗りましたか?」と尋ねたら、「いや、まだ乗っていません。毎日が挑戦の連続ですから」とおっしゃっていました。こちらのお店も、これからどんどん新しい挑戦が増えていくと思います。皆様もどうぞご期待ください。
篠原さん
ありがとうございます。ぜひお近くにお越しの際はお立ち寄りください。応援よろしくお願いします。
金子
本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
篠原さん
今度ともよろしくお願い致します。

フレンチ食堂 翠藍朱の店舗情報

店名:『フレンチ食堂 翠藍朱』
業態:フレンチ
住所:〒236-0053 神奈川県横浜市金沢区能見台通8−9
アクセス:京浜急行本線能見台駅出口より徒歩約3分/金沢シーサイドライン幸浦駅出口より徒歩約41分/金沢シーサイドライン産業振興センター駅出口より徒歩約42分

営業時間
月、水~日: 11:30~14:30 (料理L.O. 14:00 ドリンクL.O. 14:00)
17:30~22:00 (料理L.O. 21:30 ドリンクL.O. 21:30)

定休日 :火曜
オープン日:2024年11月13日
インタビュー動画:以下からインタビュー動画をご視聴いただけます。

編集後記(開業コンサルタント大森から見たポイント)

大森
フレンチ食堂「翠藍朱」の篠原オーナーは、ご自宅近くで見つかった「希少な居抜き物件」というチャンスを逃さず、無事に地元での開業を実現しました。現在は順調な経営を続けていらっしゃいます。
ここで改めて、地元開業を成功させるためのポイントと注意点を整理しましょう。

■ 地元開業の成功ポイント

  • ポイント①:物件は腰を据えてじっくり探し、チャンスを見逃さない
    物件を探す際、地域を絞れば絞るほど物件は見つかりにくくなります。特に「重飲食可」の物件や「居抜き物件」は数が少ないため、地元の不動産屋さんや友人・知人などに物件を探していることを広く伝えつつ、じっくりと腰を据えて探しましょう。物件が見つかった場合には、「どうすればこの物件で開業できるか?」という前向きなスタンスで検討することが大事です。
  • ポイント②:地元のコネクションを最大限に活用し、余分な広告費を掛けない
    地元開業の最大の強みは、その地域における人脈やコネクションです。ご自身だけではなく、ご家族や友人・知人を含めた地元のネットワークを最大限に活用することにより、多額の広告費をかけなくてもクチコミや紹介でお客様を増やしていくことが可能です。
  • ポイント③:お客様とのコミュニケーションを大切にし、地域のお客様から応援してもらえる状態を作る
    地元で開業する場合、お客様の多くはその地域に住んでいる人・働いている人になります。お客様とのコミュニケーションを大切にし、その地域にとって「かけがえのないお店」というポジションが確立できると、お店の経営が苦しい時にもお客様がお店を守ってくれるようになります。ひとりひとりのお客様に寄り添った誠実なコミュニケーションを心がけましょう。

■ 地元開業の注意点

  • 注意点①:物件探索範囲を限定する分、物件が見つかりにくい
    地域を絞れば絞るほど、物件は見つかりにくくなります。物理的に空きテナントが無ければ、どこかが空くのを待つしかないという状態になり、どこも空かなければ、どんどん開業時期が先延ばしになってしまうリスクがあります。「地域を優先するのか」「開業時期を優先するのか」については予め検討しておいた方が良いでしょう。
  • 注意点②:クチコミの力が強いので、悪い噂も広がるのが早い
    地元での開業は「クチコミ」の影響力が非常に強いため、良い噂も悪い噂もあっという間に広がってしまいます。地域内で影響力のある人物に嫌われてしまうと、一気にお客様が激減するというリスクもあります。開店前や休憩時間、お休みの日の過ごし方も含め、常に誰かに見られているという意識を持つことが大事です。
  • 注意点③:お客様の厚意に甘えすぎない
    地元で開業する場合、友人・知人であれば、必ず一度はお店に来てくれると思います。但し、そこから常連客になってもらう、あるいはクチコミや紹介を広げてもらうためには、きちんと「顧客満足度」が高い状態を作っておく必要があります。表敬訪問的な来店(いわゆる「ご祝儀来店」)は”一度きり”と考え、たとえご友人・お知り合いであってもお客様の厚意に甘えすぎず、しっかりと顧客満足度の高い商品・サービスの提供を心掛けましょう。
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