飲食店で独立や開業を志し、日々理想の物件をお探しになられている皆様、はじめまして。
年間100店舗ほどの飲食店出店をお手伝いしております、株式会社M&Aオークション開業コンサルタントの金子と申します。
早速ですが、皆様にひとつクイズです。
店舗物件探しで、納得いく物件が見つかるまでどれくらいの期間かかるのが ”普通“ でしょうか?
「物件が見つかるまで、約6か月〜1年。」
これは、今まで数千店舗の出店に携わってきたわたしどもの実体験に近い数字。
目安として、3か月ほど経ったのに良いなと思える物件にひとつも出会えていないと黄色信号。
物件を探し始めて3ヶ月以上経過した方は、そんな候補物件をいくつか見つけましたか?
もしあなたが良い店舗物件に出会えていないのならば、
「たまたま」ではなく「出会えていない理由」があることがほとんど。
正直に申しますと、この理由に気付かず物件を探し続けてもムダが多い活動になることは間違いありません。
ここでは「良い物件に出会えない」2つの原因と対策を解説します。
明日からの物件探しに劇的な差が出てきますので、ぜひ活用ください。
なぜ良い店舗物件にいつまでも出会えないのか
「飲食店出店希望者に対し、出てくる店舗物件は非常に少ない。」
この厳しい現実を把握したうえで今後の作戦を立てましょう。
今、需要(出店ニーズ)と供給(居抜き物件)のバランスが大きく崩れているのが現状です。
筆者はかれこれ15年間ほど物件開発に携わっていますが、以前よりもさらに「みんなが良い思う物件」は見つかりにくくなっています。
その理由は2つあります。
ひとつは、法人・個人含め多くの出店希望者が物件を探す数に比べ、市場に出てくる店舗物件が少ないこと。
ウェブなどで物件が探しやすくなっていても、良いものが見つかりにくいのはこのためです。
ふたつめは、大手〜個人まで探す物件の条件が似通ってきていること。
昔であれば、大手チェーンは大型物件や更地からの開発物件なども出店候補に入れていました。
また、スケルトン物件でいちから店舗を作ることがチェーン店の基本とも言える時代が長かったのです。
しかし今では、大手チェーンも居抜き物件を求め、その坪数も以前の50〜100坪ほどでなく10〜20坪ほど。
立地も駅前すぐではなく、串カツ田中のような駅から離れた場所や奥まった場所にあえて出店する新興チェーンも出てきました。
つまり、個人も大手も求める物件のスペックが以前より似通ってきた結果、物件争奪戦が激化したと言えます。
そもそも物件の需要供給関係に関わらず、どの店舗も黒字で継続経営していれば候補物件として表に出てくることはありません。
「良い物件=誰が見ても条件が良さそうな物件」と考えれば、そんな『良い物件』が出る確率はそもそも低いことに気付きますよね。
物件の探し手には「こだわりたいポイント」はあるとは思います。
しかしそのこだわり全てを満たした物件を探し続けることは現実的でしょうか。
ある程度は物件の選択肢を広げなければ、納得する物件にいつまでたっても巡り合えません。
いくら探し続けても見つけられず、時間だけが経過していくことが最大のリスクです。
「良い物件」を探すのはやめましょう。
開業希望者は、物件探しを行う時に発想の転換が必要です。
そこでわたし金子からのご提案です。
理想の「良い物件探し」、やめません?
「誰しもが関心を持ちそうで条件が優れたもの=良い物件」ではなく、本来は「自分の商売・業態に合う物件」を探すべきです。
家賃が安く、設備が充実し、視認性も良く、周辺に働いている人も住んでいる人も多く、交通量は昼も夜も多い。
まれに、そんな夢のような物件をお探しの出店希望者にお会いすることがあります。

物件を探し始めて2年…。いっこうに「良い物件」が見つからない。

物件が見つからなすぎて、このままだと溜めてた自己資金を生活費として使うしかないぞ・・・。
しかし残念ながら、全てを満たす「良い物件」は世の中にはありません。
そこで重要になるのが、店舗物件を選ぶときの「ストライクゾーン(探索範囲)を広げる」こと。
自分にとって最も打ちやすい外角高めのストレートだけを待つのではなく、狙い玉(検討できる物件の幅)を広げましょう。
様々な球種やコースを打てた方がヒットやホームランを打ちやすい、すなわち店舗商売の成功により近づけると思いませんか?
とは言え、自分の理想とする物件の条件を広げるのに心理的抵抗や不安がある方もいるかもしれません。
でもご安心ください、物件検討のストライクゾーンの広げ方には大きく分けて2つの方法があり、誰でも実行可能な方法を解説していきます。
世間一般の良い物件ではなく、自分の商売・業態に合う物件なら必ず見つかるはずです。
物件を見つけるための「ストライクゾーン」拡張2つの方法
検討する物件を広げるには、2つ方法があります。
①候補駅(エリア)を増やす
②総予算を増やす
この2点が代表的な、かつ現実的な選択肢です。
「候補駅(エリア)を増やす」ことは、比較的容易。
考え方の問題ですので、次の章で詳しく解説しましょう。
問題は「総予算を増やす」こと。
総予算しだいで対象となる(開業できる)物件の選択肢は自動的に決まってしまいます。
例えば、首都圏エリアで飲食店を新規で開業する場合
10坪前後で家賃が20万円規模の店舗物件を検討するのがよくあるパターン。
「物件契約」「工事・設備費」「諸経費」「運転資金」まで考慮すると総額で800万円~1200万円規模になります。
1200万円も貯めるのは、厳しい…
全てを自己資金で用意する必要はありません。開業融資を使うことも視野にいれましょう金子
融資申請をした際、一般的に「自己資金の2倍」が融資最大額の目安です。
逆算すると、800〜1200万円の資金を確保するためには、266~400万円程度が自己資金として必要。
当面の生活費を除いて、最低でも260万円。
これが準備ができていなければ、物件探しの土俵に乗れていないことになります。
この土俵に乗れていない(自己資金が足りない)状態では、「探している物件」と「現実的に出てくる候補物件」との予算ギャップが大きいため、非現実的なものを探している状態に近くなります。
それに気付かず物件を探し続けていると、どうなるか。
当然ですが、いつまでも候補物件が見つけられません。
非現実的な条件の店舗物件を探し続け、時間をムダに過ごすのは避けたいところですよね。
結局、開業できる物件の選択肢は総予算次第。
開業資金の内訳(1)や融資のポイント(2)などは以下の記事をご参考ください。
(1)開業資金内訳の解説記事:飲食店の閉店は、よく赤字が原因だと「勘違い」されている。
(2)融資の解説記事:VR×飲食店!前例がない斬新な業態【FIRST AIRLINES】はどう開業融資を成功させたのか?
続いて、候補エリア・予算を増やすとどのように選択肢を増やせるか具体的に解説していきます。
候補駅(エリア)の増やし方
探している「理由」からエリアを広げる
「なぜ最初の候補駅(エリア)で物件を探そうと思ったのか」をまず考えてみましょう。
物件を探し始める際、想定顧客(ターゲット)に基づいてエリアを考えたはずです。
振り返って思い出してみてください。
例えば、「新橋」で物件を探していた場合。
探し始めた理由があるはずです。
やっぱりウチの店はサラリーマンをターゲットにしたいから
これを逆にいえば、サラリーマンがいれば、「新橋」でなくてもいいということになります。
オフィス街は、他にも多くあります。
汐留・浜松町・田町・品川・番町・麹町など。
探している理由に合致する場所は、すべて店舗候補地に加えてエリアを広げるべきです。
次に現実的に出店できる場所を考える
続いて、ご自身の希望条件を掛け合わせて絞ります。
例えば、「自宅から通勤しやすい」「仕入れ先に1時間以内で行ける」など。
この際には条件ひとつひとつが、妥協できるものなのかそれとも絶対譲れないものか分けて考えておきましょう。
それが妥協できる条件であったり、他の手段で代替できるようであれば、候補地からは外さないでおきます。
あ、良い物件が出てきた!でも、ココは電車で通いづらいんだよなぁ。いや、この条件なら、足として車を買ってでも出店する価値がある!
総予算を増やすと選択肢が増やせる
次に候補地から出てきた物件の中で、どの物件を検討できるか。
それは、総予算に左右されます。
予算が多ければ多いほど、「より良い条件」「より多くの種類」の物件を検討できます。
より良い条件の物件が検討できる
店舗物件で良い条件といえば、店舗の商品力に関係なく集客が見込める物件。
例えば、このような物件です。
・駅に近い物件
・人通りの多い道に面した物件
・空中階ではなく1階
このような物件ほど、物件取得にお金はかかるもの。
総予算を増やせば物件保証金等の予算枠も拡大でき、このような物件も検討にのせていけます。
より多くの種類の物件が検討できる
また、総予算に余裕があると内装工事費に投資余力が生まれます。
自分の業態に近い居抜き店舗だけでなく、設備が合致しない居抜き物件やスケルトン物件も検討できますよね。
居抜き物件といっても、状態はさまざま。
そのまま開業できる状態の良い物件もあれば、床・壁がある程度で厨房機器は新しく買い揃えなければいけない物件も。
考えている雰囲気と全く違う内装のため、内装・外装工事が必要なこととも多々あります。
もし、工事費がとれない場合、選択肢は狭いまま。
ラーメン店がやりたいけど、工事費がない。ラーメン店の居抜きで造作譲渡料も50万円以下でないと厳しい。
こうなるといつまでも物件が出てこないかもしれません。
※ラーメン店の居抜きは人気が高いため、造作譲渡に50万円以上の値がつくことが珍しくないため。
そのまま手を加えず開業できる居抜き物件しか検討できないのか、スケルトン物件でも検討できるのか。
ここも予算によって大きく左右されます。
予算を拡大させつつ、物件探索を継続するのが王道
じゃあ最低限必要な自己資金が貯まらなければ、物件探しを始める必要がない?
自己資金が貯まりきってなくても、探しておくのがオススメです金子
店舗物件は御縁とよく言われますが、どのタイミングで出会うかは全くの未知数。
必要な自己資金を貯めることは重要ですが、それと並行して物件探索活動は継続することをお勧めします。
仮に、まだ自己資金が不足しているタイミングで気に入った物件が出てきてしまった場合は、その時点で開業できる方法を全力で考えましょう。
店舗物件はオンリーワンなので、「あの時あの物件が取れていれば・・・」と後悔しないよう考え尽くします。
ただし、飲食店の立ち上げには時間がかかるため、運転資金の確保は絶対。
そこで、素晴らしい施策やアイディアが出て早期に開業できれば理想。
自己資金が足りなくても親族を必死に説得して出資してもらうなど、強い想いで考えれば何か施策が出てきたりするものです。
もし予算不足で対象物件を諦めることになったとしても、その活動自体が次に候補物件が出てきた時に経験として生きてきます。
結果として開業への道のりを短縮することに繋がりますので、無駄な活動にはなりません。
よって、予算を拡大させながら、物件探索活動を継続することが好ましい活動と考えられます。
1円もお金がない状況では難しいですが、資金状況しだいで活動の比重が変わってくるといったところでしょうか。
資金不足で削るなら内装工事費
もし自己資金が不足している段階で気に入った物件が出てきたら、その時点で開業できる方法を全力で考えましょう金子
最もコストダウンが見込めるのは、内装工事です。
このような方法が考えられます。
①現状の店舗に手を加えずに開業
今の店舗設備・内装をそのまま活かす方法で、看板だけ変えてそのまま営業できないか考えます。
思っていた雰囲気と違う物件でも、内装の壁周りなどはオープン後でも手を加えることもできます。
お店が軌道にのってから内装工事を手がけ、理想の店舗をつくるのもひとつの選択肢。
最初に全ての工事を終える必要はない、と考えましょう。
こちらのたこやき居酒屋8864では、棚付けと看板の工事だけ。
内装費用を120万円に抑えています。
/blog/?p=2556
②自分でできる工事は業者を使わずコストダウン(DIY)
施行業者に工事を頼むと、当たり前ですが人件費・技術料・業者の利益などが加わりコストがかさみます。
施行の一部(もしくは全部)をDIYしてしまえるなら、内装工事費を大きくコストダウンできます。
DIYを行う際の注意点は、こちらの記事をご参照ください。
店舗の内装工事を自分で行う(DIY)メリット・デメリットと注意点【和食居酒屋なごみ】
調理方法を見直し、厨房機器の購入を見送るのもひとつの工夫です。
・フライヤーを使う予定だったが、天ぷら鍋で調理する。
・パスタボイラーを検討していたが、寸胴鍋で代用する。
「コレだ!」という物件では、なんとか開業できるように工夫していきたいもの。
しかし無理してそこで自己資金を使いすぎると、お店の立ち上げ期をのりきれず短命店舗となってしまう危険性があります。
出てきた物件で開業方法を考えつつも、開業後の資金バランスは必ず考えましょう。
物件探しのコツは、ストライクゾーン(検討の幅)を広く持つこと。エリア・資金の両面から広げて、多くの物件を検討しましょう。そのためにまずは、たくさんの物件を見て知識と気づきを得るのが第一歩です。『このぐらいお金がかかるのか』『この駅は坪2万以上する』など。その気づきをもとに、再度エリア・資金を見直し、物件に巡り合いましょう。金子
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東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。
また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど豊富な経験を持つ。
その後、株式会社M&Aオークションの立ち上げに携わり現在に至る。
「店舗そのままオークション」の創立以来、年間100店舗以上の開業に携わり、支援した数は500店舗を超える。
現場思考のサポートに定評があり、顧客からの信頼も厚い。