飲食店を開業する人の中には、飲食の現場でしっかりと修行を積んでから独立開業する人と、飲食未経験、いわゆる脱サラから独立開業する人がいます。
一般に、飲食経験者に比べて脱サラから開業する人は「失敗しやすい」と言われますが、果たして本当にそうでしょうか。
確かに統計的に見ればそうかもしれません。
しかし、実は開業の進め方、考え方次第で脱サラからの開業でも成功されてる人は沢山いらっしゃるのです。
今回は脱サラから小さなワインバーを開業し、順調な立ち上げを実現。充実した毎日を過ごされている清澄白河のWine Room C.moment(ワインルーム シー・モーメント)の有宗オーナーのインタビューを通じて、脱サラ開業で失敗しないポイントを探っていきたいと思います。
■Wine Room C.moment ってどんなお店?
(左)Wine Room C.moment 有宗徳子オーナー (右)開業コンサルタント 大森 智幸
(大森)早速ですが、Wine Room C.momentさんのお店の特徴について有宗さんから簡単にご紹介いただけますか?
(有宗)はい。「ワインルーム」とさせていただいておりまして、主にワインと簡単なおつまみをご案内させていただいているんですけれども、お店のコンセプトとしましては、「ワインが繋ぐご縁を大切に」というところで、皆様に集まっていただけるようなお店作りができたら、ということでオープンいたしました。
(大森)ワインルームはその名の通りですけど、「シー・モーメント」っていう部分に込めた「想い」についても教えてもらっていいですか。
(有宗)シー・モーメントの元は「シャンパーニュモーメント」っていうバラがありまして、そこからもらってるんですけれども、元々ちょっとだけイギリスに暮らしてたことがありまして、バラ園というのが私の中では夢のような場所なんですね。幸せな空間を作れたらというような思いもありまして、シャンパーニュモーメントから名前をもらっています。シャンパーニュモーメントのシャンパンを「C」と省略しているんですけれども、ここにはComfortable(快適な)ですとか、Cozy(居心地が良い)とか、そんな意味も込めてまして「心地よいひと時をお過ごしください」というメッセージとして「シー・モーメント」とさせていただいてます。
■有宗オーナーの経歴について
(大森)元々有宗さんは、ほとんど「飲食の現場」には入っていらっしゃらなくて、一番長いキャリアは「金融関係」ですね。
(有宗)そうですね。ほぼほぼ金融業界におりまして、いわゆる銀行員ですね。 家族の関係がありまして、3年間ロンドンに行っていまして、日本に戻ってきてから開業準備を始めました。開業を目指したきっかけとしては、ソムリエ資格を取ったことっていうのは1つ大きかったんですけれども、飲食店のように人が集うような、そういう場所っていうものが何か欲しいなっていうのはずっとあって、資格を取ったっていうことで、沢山仲間ができたり、相談できる方ができたり、そんなところで、ちょっとこう、1歩踏み出せたかな、という感じですね。
(大森)自分がいつかワインの店をやりたいから、ソムリエを勉強しようと思ったのか、それともお店をやるかどうかは別にしてソムリエを目指されたのか、どちらでしょうか?
(有宗)資格を取ろうということが先でして、お店をやることと直結をしてなかったんですけれども、自分が持っている気持ちとかアイテム、タイミングが重なって今に至るという感じですね。
(大森)実は、5年ぐらい前にも1度相談にいらっしゃってましたよね?
(有宗)そうですね。その頃もかなり本気ではあったんですけれど、過去を振り返ると2回、3回諦めてまして、でもなんか、こう「くすぶる思い」があって、タイミングってやっぱりあるんだなっていうのは、今になると思いますね。
会社員時代は銀行員だったという有宗オーナー
■開業場所・物件について
(大森)そんな経緯があって、昨年(2023年)オープンという形で進んだわけなんですけど、改めて当社にご相談に来ていただいた時は、実は物件を契約した後でしたよね?
(有宗)そうですね、はい(笑)。この清澄白河という場所が、なかなか物件が簡単に出てくる場所ではないですので(長い目で探していたところ)この物件が「ポンっ」て見つかって、そんな出会いがありまして。初めはちょっと思っていたよりも小さな箱だったので、迷いが少々あったんですけど、飲食店の経験がありませんので、身の丈に合っていていいのかなって思うのと、もう1つはこのビルのオーナーの方もすごく応援してくださったっていうような入り口もありまして、「出会いとタイミング」だなぁ、という風に思ってます。
(大森)かなり小さい箱ですよね。
(有宗)約4.6坪で、本当に小さいです。
(大森)料理をメインでやるわけじゃなくて、ワインが中心で、フードは乾物とおつまみ類という感じだと、厨房がかなり小さくできて、席数を6席取りながらも、家賃をしっかり抑えられていますね。
(有宗)「身の丈で」っていうところをずっと考えてましたので、現実的なお家賃ではありました。
約4.6坪の小さなスペースに厨房とカウンター席6席を配置
■開業前に不安や心配だったこと
(大森)物件を契約されて、内装の話を少し進められてる頃に、当社の無料開業セミナーに来てもらったんでしたっけ?
(有宗)はい。参加させていただきました。
(大森)セミナーに参加されたのは、何か「不安」や「心配」があったのでしょうか?
(有宗)そうですね。もうあの頃が1番不安と心配が大きくって、もう毎日本当に不安で仕方ない時期でしたね。この後、具体的にどう進めていけばいいんだろう?と。元々考えてるものがありましたので、できると思っていたんですけれども、経験のない業界なので、すごく難しかったです。それで、もう藁にもすがる思いで、大森さんのところにご相談に上がったっていう経緯ですね。
(大森)想いはすごく強いものがあったのですが、それをコンセプトとして「お客様にお店の魅力が明確に伝わる」ぐらいのまとまった形になってなかったので、その辺を一緒に整理するところからお手伝いさせて頂きましたね。
(有宗)そうですね。自分の中ではもう確固たるコンセプトがあるって思っていたんですけれども、人に伝えるっていうことで、伝わらないとか、形にできないとか、家族とか友人にも「何がやりたいかよく分からない」とか言われて、グサッときたり。(笑)
(大森)あまり慌てすぎずに、きちんとコンセプトを作って、その後、事業計画作りのお手伝いもさせて頂きましたが、今回、1番気を付けていたことは、無理して最初からお客様に沢山入ってもらっても、急いでやってしまうと、オペレーションがまだ自信がない中で、お客様に不満が出てしまい、かえって立ち上がりが遅くなることが考えられるため、今回は、かなり長い立ち上げプランを一緒に考えさせてもらいましたね。「1年ぐらいを立ち上げ期間と考えましょう」と。
(有宗)はい。 無理がない形でやっていきたいなっていうのは、大森さんも理解してくださっていたので、非常にいい時間配分で進めていけたなと思っています。
(大森)小さなお店で家賃も安く、1人でやるっていうことを前提に考えてらっしゃったので、毎月掛かる固定費が少ないことが見えていたので、ゆっくり立ち上げていくという計画を一緒に立てさせて頂きましたが、その時に、1番不安を感じていらっしゃったのが「オペレーション」の部分ですね。
(有宗)そうですね。
(大森)ワインの知識は持ってらっしゃいますが、厨房側に入って オペレーションするとなると、やっぱり不安ありましたよね。
(有宗)大きな不安がありましたね。ワインのサーブですとか、保存の仕方、グラスの扱いですとか。本当に初歩的なことですけれども、自分でやるのと見ただけではやっぱり全然違いますので。
(大森)すごくワインで有名なお店とご縁があったんで、有宗さんの事情をお話したところ「体験で来てもらうのは構わないですよ。」と言って頂けたので、実際に研修に行ってもらいましたね。結局、どれぐらい行かれましたっけ?
(有宗)実際入ったのは3日なんですけれども、自分の中で自分がどこまで今のキャパシティできるのかっていうところはちょっと押さえておかないといけないな。おつまみやワインの種類ですとか、あちらを100点とした時に、自分は何点満点を目指してやるのか、とか、目安感をお勉強させていただいたかなって思っています。
(大森)あちらのお店はオペレーションは、相当経験を持ってないとできないレベルなので、初めから未経験であの状態を目指そうと思うと、どこかで破綻してしまうので。「あのレベルは無理だ」と分かることがすごく大事ですね。自分がやれることに集中できるように、(調理ではなく)「ワイン」と「接客」に集中できる環境を整えた方が有宗さんの良さが出る、そこに気付けたのはすごく大きかったと思います。
(有宗)大変学ぶことが多かったですし、その時のご縁が今も続いてまして。良い方をご紹介いただいて、良い経験ができました。
■長いプレオープンについて
(大森)内装工事も終わって、営業許可も下りて、いつでもスタートできる状態になってから、プレオープン期間をかなり長く取りました。
(有宗)すごく長かったです(笑)。
(大森)11月初ぐらいは営業できる状態にはなっていましたが、年末ぐらいまでは少なくともプレオープンにしましょう、と。
(有宗)ええ、そこからまた伸びまして、トータルで3ヶ月ぐらいプレオープン期間になってしまって。
(大森)「プレオープン期間」とお客様にも謳っておいて、それに気付いて入ってくるお客様や完全なオープンではないという前提で入ってくるお客様って、かなり優しく見てくれますよね。
(有宗)そうですね。
(大森)有宗さんは、人当たりが良くて、ワインの知識もある程度持っていらっしゃるのですが、どこまでオペレーションができるか?というのは、ご支援させて頂く我々も少し不安だったのですが、思った以上に、接客が上手でしたね。オペレーションには少し「たどたどしさ」がありましたが、すごく落ち着いた接客をされていて、これだったら1年もかからずに、お客さんに満足して帰って貰える状態がもっと早いタイミングでくると確信しました。
(有宗)あの時に大森さんがそういうことを言ってくださったのが1つの自信になったかなとも思います。
(大森)インスタとgoogleに情報だけは載せておいて、表に小さな看板を出しておいたら、(プレオープンにも関わらず)すぐに地元のお客さんが入ってきてましたね。
(有宗)住宅街なので前の道を通ってご自宅に帰る方が結構いらっしゃるんですけれども、オープンしたら、皆さん「おずおず」と入ってきていらっしゃって。(笑)
(大森)早いタイミングでリピーターになる方もいらっしゃいましたよね。
(有宗)そうですね、お陰様で幸せです。
(大森)結局、プレオープンと言いながらも、売上も段々上がってきて、グーグルのクチコミなんかもすごく評判良いですよね。
(有宗)お陰様で。ありがとうございます。
(大森)「クチコミを見て来ました」っていう方もいらっしゃいますか?
(有宗)「なんかとっても居心地が良さそうなので、1回来てみたくて。」なんて言って来てくださるお客様もいらっしゃいます。
グーグルのクチコミは最高評価の「5点」ばかり
■この先の目標について
(大森)今のところ、順調に来てる感じかなと思うんですけど、この先の目標とか、考えていることはありますか?
(有宗)今の状態が非常に良く、私の中ではかなり満足のいく状態がもう出来上がってますので、これを継続していって、5年、10年と続けられるのが1番大切だなっていう風に思ってます。
■これから開業される方への応援メッセージ
(大森)有宗さんと同じように、飲食店の経験が少ないけど、脱サラからお店をやりたいという方も多くいらっしゃるのですが、有宗さんが開業前に感じていたような不安や心配を感じている人に向けて、有宗さんから、応援メッセージを頂けますでしょうか?
(有宗)元々会社員をしていまして、経験のない飲食店を開業するっていうのはある意味「無謀」ではあるんですけれども、それでもやっぱりやりたいって気持ちがあるなら、その気持ちはやっぱり大切にしないといけないんじゃないかな、と思います。皆さん、やりたいことやその思いをきちんと何かの形にするっていうのは、逆に会社員をしている方であれば、何かしら経験があるのではないかと思います。持っている経験とか知識とか、無駄になることは何もなかったと思いますので、同じような環境で、是非一緒に始められたら良いんじゃないかなって思います。
(大森)このお店に来て、ワイン飲みながら、ちょっと相談しても大丈夫ですか?
(有宗)もちろん!私なんかでよろしければ!一緒にちょっとお話しながら、私も逆にまたお勉強させていただくこともあるんじゃないかなと思いますので、 ぜひぜひいらして下さい!
(大森)有宗さんは、開業して良かったですか?
(有宗)はい、良かったです!本当に!もう、素晴らしく幸せです。
■当社のサポートについて
(大森)ちなみに、今回、当社の方でコンサルティングって形でお手伝いさせていただいたんですけど、当社のサポートはどうでしたか?
(有宗)本当に大森さんにご相談することがなかったら、開業できなかったかもしれないなって思っています。さっきもお話したんですけれど、本当に1番不安な時に、藁にもすがる思いで駆け込んだっていうのがありまして、自分の思ってることを具体的な形にするそのお手伝いをしていただけたっていうことが1つ。実際、経験がない中で、本当にこれでやっていけるのかな?ってずっと片隅で思ってるんですけれど、「いけるんじゃないですか。」「大丈夫じゃないですか。」っていうことを言っていただけたことで、すごく安心できたというのが大きかったです。
(大森)これからも何かあったらいつでも相談してください。
(有宗)ありがとうございます!
■『Wine Room C.moment』の店舗情報
- 店名:『Wine Room C.moment』
- 業態:ワインバー
- 住所:東京都江東区三好2丁目8−2
- アクセス:東京メトロ半蔵門線「清澄白河」B2出口より徒歩約4分
- TEL:070-2242-2828
- 営業時間:ディナー 18:00~23:00 (日曜・月曜定休)
※営業時間は予告なく変更になる場合があります
- オープン日:2023年11月13日(プレオープン開始)
- インタビュー動画: 以下からインタビュー動画をご視聴頂けます
■編集後記(開業コンサルタント大森から見たポイント)
いかがでしたでしょうか?
私どもが脱サラから開業される方をご支援させていただく際に気を付けていることは、
①小さな物件、家賃の安い物件、競合の少ない立地で出店すること
②無理のない身の丈に合った計画を立てること
③オーナー様が持つ強みや魅力を最大限に発揮できるコンセプトを練り上げること
④不得意な分野や苦手な分野であえて勝負をしないこと
⑤プレオープン期間を長く設けるなどして、焦らず段階的に立ち上げること
などが挙げられます。
飲食店での実務経験がない方、または経験が少ない方が開業で失敗しないためには、飲食業界で20年、30年と長く修行を積んだ人と「同じ土俵で勝負をしない」という視点を持つことが大切だと思います。
脱サラからの開業をお考えの方で、何か1つでもご不安やご心配のある方は、ぜひお気軽に当社の無料セミナーや無料個別相談にお越しいただければと思います。
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