(左:オーナーシェフ栗田さん 右:開業コンサルタント大森)
「焼き鳥屋のお会計」と聞いて、どれくらいの値段を思い浮かべますか?
3000~4000円、もしくは1000~2000円代のリーズナブルな店をイメージする方もいらっしゃるでしょうか。
今回みんなの飲食店開業でインタビューさせていただいた「焼き鳥 峠」の価格設定は、「1名あたり6000~8000円ほど」と決して安くはありません。
低価格の焼き鳥屋が多いなか、「焼き鳥 峠」はなぜ強気な価格設定ができたのでしょうか?
その価格がスムーズにお客様に受け入れられ、なぜ順調に顧客を増やしているのでしょうか?
少し高めの客単価にも関わらず、連日満席の人気店を立ち上げたオーナーの栗田さんに、その秘訣について取材させていただきました。
「焼き鳥 峠」栗田さんのインタビューから見えてきたのは、利益もきちんと出しながら、お客様からも愛されるお店のつくり方。
競合店との価格競争にさらされている経営者様、メニューの価格設定に悩んでいる開業者様に、このインタビューは役立つはずです。
まずはお店とオーナーシェフについて簡単にご紹介させてください。
2018年8月3日に「焼き鳥 峠」がオープンした場所は牛込神楽坂。
牛込神楽坂は少し落ち着いた大人のお店が点在する、玄人好みなグルメゾーンで安居酒屋から、敷居の高い店までさまざまな飲食店が混在。
焼き鳥峠はその中でも、閑静な住宅街立地の細工町にお店を構えています。
オーナーシェフは三軒茶屋の超繁盛焼鳥店「床島」(ミシュラン掲載、食べログ評価3.58)で修業を積んだ栗田さん。
料理の「美味しさ」はもちろん、「流れるようなコースの組み立て」「絶妙な提供タイミング」などすべてが高クオリティ。
まさに、感動レベルのサービスが受けられます。
「みんなの飲食店開業」の大森がお伺いしたのは、オープンから1か月半が過ぎたころ。
当然のごとく、平日の夜でも満席。
少しくらい、オープン記念の値下げや販促をやっているんじゃないの?
「焼き鳥 峠」はチラシやクーポンといった特別な広告宣伝はせずに、集客は口コミや紹介のみ。
オーナーシェフ栗田さんが見事な手さばきで調理。出来たて絶品焼き鳥を、調和の取れた空間で口にすれば、対価としての6000円は安く感じるもの。
一般的な焼き鳥屋の客単価が2500円~3500円だろうが、「焼き鳥 峠」の価値は揺らぎません。
飲食店の価値は、食材原価や価格だけで決まるものではない。
これは栗田さんが掲げたコンセプトに通じています。
家庭やスーパー、大衆居酒屋では決して味わえないプロの料理人が提供する「本物に美味しい焼き鳥」に出会う”感動”を味わってもらいたい
「価格」ではなく「価値」で勝負する。
個人飲食店ならではの強みを発揮し、「こだわり」で勝負するのはいかがでしょうか?
そのためのヒントが散りばめられた、栗田さんの開業ストーリーを紐解いていきましょう。
超繁盛焼鳥店で修行の末、独立開業した「焼き鳥 峠」
「焼き鳥 峠」を開業したのは、三軒茶屋の超繁盛焼鳥店「床島」で修業を積んだ栗田オーナー。
繁華な賑わいをみせる神楽坂エリアから少し外れた「牛込神楽坂」エリアに2018年8月3日オープンし、1か月半ほど経った9月にインタビューにご協力いただきました。
平日の午後8時にお伺いしたのですが、16席の店内は満席。
もちろん特別な広告宣伝は何もせず、集客は口コミや紹介のみ。
栗田さんが飲食店を開業するに至ったきっかけは、ある有名店との出会い。前述しましたが、ミシュランにも掲載された超繁盛焼鳥店「床島」です。
サラリーマン時代にふと訪れた「床島」。
そこで栗田さんは店の味とサービスに、人生観が変わるほどの衝撃を受けたのです。
自分もこんな風に人に感動を与えられる仕事をしたい
何度も何度もお店に通い詰めて、「床島」の大将を説得。
その熱意が通じ、ついにお店で働かせてもらえることになりました。
それから約4年。
優しくも厳しい大将のもと、未経験から必死で現場経験を積んでいった栗田さん。
鶏肉を「マル(※一羽丸ごと)」で仕入れ、みずから解体できる腕前と資格(食鳥処理衛生管理者)を習得。
ふと気づけば、お客様に自信を持って提供できるほどの技術を身に着けていました。
4年間の想像を絶する努力の末、大将のお墨付きをいただき、念願の独立を果たしたのです。
値段以上の価値を提供する工夫とは
「焼き鳥 峠」の価格設定は、「1名あたり6000~8000円ほど」。
一般的な焼き鳥屋(客単価2500円~3500円)と比較すると、決して気軽な価格帯とは言えません。
それでも「焼き鳥 峠」がお客様から愛されるのには、理由があります。
「コスパが良い」に込められた真の意味
まずお伝えしなければならないのは、お客様にとってのコストパフォーマンスの感じ方。
提供価格に占める食材の仕入れ原価比率が高ければコスパが良い、そんな単純なものではありません。
飲食店の食材原価率は、一般的に売上の30~35%。
とはいえ原価が標準より低くても、お客様の満足度を高め、愛されるお店作りはできます。
たとえ原価率が20%であっても、お店の工夫や努力しだいで、お客様に『コスパが良い』と感じていただき、満足いただくことはできるのです。
なぜなら、お客様は総合的に価値を判断するから。
お客様が感じるコスパの良し悪しは、支払い金額より価値を感じるかどうかに左右されます。
コスパの良さ=「体験価値」+食材原価 > 支払い金額
提供できる「体験価値」はお店によって異なります。
- 料理の盛り付け方
- こだわりの食器
- お酒とのマリアージュ(組み合わせの良さ)
- おもてなしの心(接客やアメニティ)
- スタッフとの何気ない会話
- 店舗の雰囲気(内装)
- BGM
顧客が受け取る総合的な体験価値と、実際に支払う金額のバランスで、コストパフォーマンスは判断されます。
「焼き鳥 峠」でしかできない体験
「焼き鳥 峠」が集客に困らない理由は、ここでしか体験できない価値にあります。
- 洗練された店舗デザインの雰囲気
- 見事な手さばきで目の前で調理されるエンタメ感
- 絶妙な提供タイミング
- 出来立ての絶品焼き鳥
お客様は、洗練されたデザインの店内で、見事な手捌きで目の前で調理される出来立ての絶品焼き鳥を堪能。
支払う価格以上に、感じる体験価値(=感動)が大きいため、顧客は満足してくれるのです。
結果としてリピーターや口コミが早いペースで増えて、新規・常連のお客様で満席に。
この体験価値をより強くお客様に感じてもらうために、栗田さんが準備したこととはなんでしょうか?
コンセプトを固め、飲食店開業のプロを上手に利用する
店舗におけるすべてのベースは、栗田さんが掲げるコンセプト。
家庭やスーパー、大衆居酒屋では決して味わえないプロの料理人が提供する「本物の焼き鳥」に出会う”感動”を味わってもらいたい
「焼き鳥 峠」の顧客ターゲットは食に関心の高いグルメ層。
朝に捌きたての鶏と鴨を、一本一本丁寧に焼いて提供します。
多少お金を払っても、質の良い美味しいものを食べたい
こういったお客様が多くいるであろう、広尾・恵比寿・神楽坂を中心に物件を探しました。
常連客になってもらいやすい客層が多い、住民の張り付きがあるエリアを重視。
「料理スキル」=「開業スキル」ではない
繁盛店で修業を積み、優れた調理技術を持つ栗田さん。
しかし、料理人として調理が優れてさえいれば商売が必ず成功するとは限りません。
開業準備・経営において、料理の腕以外の知識・ノウハウも必要不可欠。物件探し・資金計画・仕入れ・集客・売上管理・人材管理など、多岐に渡ります。
飲食業界に長くいても、上記のような幅広い知識を持つ人は極わずか。
お店の運営経験はあっても、0からの開業を経験された方はそう多くはありません。
さすがの栗田さんも店舗の立ち上げは未経験。
必要なところだけ、プロの力を借りることにしました。
まずコンセプトを不動産会社に共有し、物件紹介を依頼。
出店した「牛込神楽坂」エリアは、繁華な賑わいを見せる「神楽坂」エリアから少し外れた場所で、落ち着いた大人のお店が点在する玄人好みなグルメゾーンです。
4駅・4路線が利用可能でアクセスが良く、都内でも有数の高級住宅エリア。
中途半端の腕前では太刀打ちできないハイレベルなエリアですが、栗田さんほどの腕であれば問題ありません。
しかし・・・
エリア・規模・賃料ともに、条件の合う店舗物件を見つけることができましたが、物件契約のためには、開業資金のさらなる確保が必要。
先述の不動産会社から飲食店の融資サポートに強い会社として紹介いただき、わたし大森がご相談にのらせていただいたのです。
金融機関から栗田さんの経験が最大限に評価されるよう、事業計画を一緒に作り込み。
満額で融資を獲得し、希望の物件で出店することができました。
参考記事:個人の飲食店で、開業資金を「現実的に」用意するための5つの方法
では次に、お客様の満足度を上げる工夫について見てみましょう。
お客様に愛されるお店のつくり方
場所が決まったら、次は中身である内装。
「焼き鳥 峠」には、お客様の満足度を高める3つの工夫があります。
満足度アップその1。満足感と効率性を両立した、カウンターだけの店づくり
「焼き鳥 峠」は18坪・16席でテーブル席はなく、カウンターのみ。
くつろいだ雰囲気で食事を楽しんでいただけるよう、奥行きをたっぷりとったカウンターを設置。
女性やカップルも来店しやすいように、清潔感があって明るい印象になるよう配慮しました。
カウンターは、厨房を囲むようにコの字型に設置されており、どの席からでも調理している姿をライブで見ることができます。
「焼き鳥 峠」の魅力は、紀州備長炭を使用した高火力で一本一本丁寧に焼き上げること。
オープンキッチンは、その魅力を最大限に伝えるための舞台装置。
目の前で焼いて煙の上がる様や、ジリジリと焼ける音、芳しい匂いなどのライブ感を、五感で楽んでいただきたい
お客様の満足感を高めるだけでなく、効率性も両立するのがカウンター席の良さ。
「焼き鳥 峠」の基本体制は2名。(栗田さんとスタッフ1名)
少ないスタッフであっても、カウンターのみなら目の行き届いた対応が可能。さらに人件費のコストダウンにも繋がっています。
もし、もう1名ホールスタッフが必要だったら、人件費はいくらかかるのでしょうか?
営業時間のみ時給1000円のアルバイトを雇用したケースを考えてみます。
「焼き鳥 峠」の営業時間は17:30~23:30の1日6時間。日曜日は定休のため、営業日は月25日。
この条件で人件費を算出すると…
6時間×25日×時給1000円=人件費150000円
アルバイト1名分のシフトが増えるだけで毎月15万円、年間180万円のコストが増えることがわかります。
2名体制で運営できる「焼き鳥 峠」はその分、品質に対しての提供価格も抑えられ、お客様がコスパを感じやすい土壌をつくることができます。
カウンターだけの店づくりで満足感と効率性を両立。
お客様へ最上級のおもてなしを提供しながらも、人件費を抑えています。
満足度アップその2。他店に差をつける「一羽丸ごと仕入れ」
さきほどお伝えしたことと重複しますが、お客様の感じる「高い・安い」は総合的な評価。
お店で感じた総合的な体験価値と、実際に支払う金額のバランスでコストパフォーマンスは判断されます。
納得のいく価格=体験価値+食材原価
では「体験価値」や「食材原価」はどのように類推されているのでしょうか?
お客様は日常生活のなかで何十件、多い方では何千件と飲食店で食事をしてきています。
経験のなかで相場感が醸成され、『こういった店であればこのぐらいの価格』というモノサシを持っています。
他店と比べて、お得感や満足感をお客様に与えられるか。
焼き鳥 峠はここでも「大きな強み」を持っています。
鶏肉を一羽丸ごと仕入れ、自ら解体
繁盛店「床島」で必死に経験を積んできた栗田さん。
鶏肉を「マル(※一羽丸ごと)」で仕入れ、みずから解体できる腕前と資格(食鳥処理衛生管理者)を習得しました。
処理された状態で仕入れる他店とくらべ、大幅なコストダウンに成功。
養鶏場から出荷された鶏のほとんどは、食鶏処理場で処理された後、加工場・飲食店・スーパーに輸送され、中間コストが乗って飲食店に届きます。
「焼き鳥 峠」では、茨城県の養鶏農家から直接仕入れ。処理場を経由しないため、余計なコストがかかりません。
加工費を削減し、他店とくらべても6割以下の価格で仕入れができています。
コストメリットだけではなく、産地直送で鮮度バツグンの鶏を使用することができます。
しかもただの鶏ではありません。
お店で使用する鶏は、フランス政府の品質保証「ラベル・ルージュ」(食料品で公的に高い品質が認められていることを示す)がついたフランス血統の鶏です。
さらに鶏肉を「マル(※一羽丸ごと)」、すなわち内臓が付いたまま仕入れることで「希少部位も提供できる」店としての強みに。
こういったメニュー戦略がとれるのも栗田さんの技術があってのこと。
食鳥処理衛生管理者は、受講資格を満たしたうえで「食鳥処理衛生管理者資格取得講習会」に参加する必要があります。
そもそも受講資格を得るためには、「食鳥処理の業務に3年以上従事している」など厳しい条件があるのです。
食鳥処理衛生管理者の資格要件
食鳥処理衛生管理者は、次のいずれかに該当する者でなければなりません。
(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第12条第5項)
(1)獣医師
(2)学校教育法に基づく大学、旧大学令に基づく専門学校において獣医学又は畜産学の課程を修めて卒業した者
(3)都道府県知事の登録を受けた食鳥処理衛生管理者の養成施設において所定の課程を修了した者
(4)学校教育法第47条に規定する者又は厚生労働省令で定めるところによりこれらの者と同等以上の学力があると認められる者で、食鳥処理の業務に3年以上従事し、かつ、都道府県知事の登録を受けた講習会の課程を修了した者
(厚生労働省「食鳥処理衛生管理者資格取得講習会について」より抜粋)
満足度アップその3。こだわった3種類のコース料理
「焼き鳥 峠」では、3種類のコースを用意。※アラカルトもOK
- 焼き鳥コース(11品・5,000円)
- フルコース(16品・8,000円)
- 軽めのコース(9品・4,000円)
コース料理の良さはなにより、お客様にお店の魅力を余すことなく堪能してもらえること。
初めての方でもどれを注文するか悩むことなく、お店として自信を持って満足いただける流れにのってもらうことができます。
人気のコースでは、前菜からはじまって、ウリである希少部位も含めた自慢の焼鳥はもちろん、〆のごはん・スープまで鶏本来の旨さを味わえる流れ。
焼き鳥に合わせたお酒の提案も出色。
酒屋での経験を活かした豊富な知識で、20種類超の日本酒、新たな提案の切り口としてフランス産やイタリア産のワインも揃えています。
体験いただければお分かりいただけますが、本当に「流れるようなコースの組み立て」。
ふと気が付いたら、お腹も心も大満足している自分に気づくでしょう。
注文がバラつくアラカルトにくらべ、コース料理は食材ロスを抑えられ、かつオペレーションもスムーズ。
お店のメリット以上に、お客様により良い体験(充実した料理内容・絶妙な提供タイミング)を提供することで満足度をさらに高められます。
いつか人に感動を与えられる料理とサービスを
栗田さんの夢は、「いつか人に感動を与えられる料理とサービスを提供する」こと。
サラリーマンだった栗田さんを飲食の世界に飛び込ませたような、強い感動。
今度は栗田さんが提供する側で、お客様に感動を味わってもらうことが目標。
はた目には、半ば叶いつつあるように思いますが、栗田さんの志はもっともっと高いところにあるようです。
これから先「焼き鳥 峠」が、どんな進化を遂げていくのか、どれだけ多くの感動を生み出していくのか、今から楽しみで仕方ありません。
まとめ:「焼き鳥 峠」の価格競争に巻き込まれない店作り
お客様の感じる「高い・安い」は総合的な評価。
提供価格に占める食材の仕入れ原価比率が高ければコスパが良い、そんな単純なものではありません。
コスパの良さ=「体験価値」+食材原価 > 支払い金額
お客様にどのような体験を提供できるか。
店舗経営者として、徹底的に考える必要があります。
「焼き鳥 峠」が示すのは、「価格」ではなく「価値」で勝負する個人飲食店のあり方。
競合店との価格競争にさらされている経営者様、メニューの価格設定に悩んでいる開業者様にこの記事が一助になれば幸いです。
■焼き鳥 峠
東京都新宿区細工町3-5荘1F
大江戸線牛込神楽坂駅徒歩3分/車1分
TEL:03-5946-8330
営業時間:17:30~23:30(L.O.22:30)
定休日:日曜
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1975年生まれ。東京都出身。
東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど、多岐に渡る豊富な経験を持つ。
実務経験15年、1000店舗以上の支援実績を誇る立地戦略・物件開発のスペシャリスト。長年の現場経験に基づいた的確なアドバイスは、個人からチェーン企業に至るまで、多くのクライアントから絶大な信頼を集めている。