繁盛するカフェと失敗するカフェ。
その違いはどこにあるのでしょうか?
独立開業の個人カフェでも、「良い雰囲気・内装で、美味しいコーヒーや料理を出す」それ自体は難しくありません。
しかしカフェも商売であり、経営としての全体戦略が大事。大手チェーンと個人店では戦い方が全く異なりますよね。
小さなカフェやるならオシャレで個性的な内装で〜。インスタ映えするメニューは必須で〜。
オシャレ内装もインスタ映えメニューも、あくまでお店を構築するひとつの要素でしかありません。
そこで、個人カフェ経営の本質を捉え、個人店ならではの強みを発揮しているオーナー様の面白い取り組みをご紹介します。
インタビューさせていただいたのは、高幡不動で『Cafe De Dango(カフェ デ ダンゴ)』店主 山田真久氏。
出店直後にまさかの、
「人通りは多いが、全く来店しない」という大ピンチ
に陥ったのです。
その逆境からどのような手順で、経営改善を行ってきたのか具体的にお伺いしました。
カフェ経営はスタバ・ドトール・タリーズ・コメダのように潤沢な資金・知名度がある大手資本だけが商売が成り立つ、いわゆる弱肉強食の世界ではありません。
ある意味、個人店がもっとも強みが発揮できる飲食店業態。
その強みとは、環境適応力。
メニューもスタイルも画一的なチェーン店に対し、周辺環境やニーズの変化に合わせた戦略をとれる個人店。
個人店だからこそ、戦略・経営スタイルしだいで、多様な立地や環境で商売が成り立ち、変化にも強いのです。
この記事では、なぜCafe De Dangoはオープン直後苦境に面したのか、想定外の危機をどう山田オーナーは乗り越えてこられたのか。
個人店でカフェ開業を志す方に、このインタビューは役立つはずです。
団子と珈琲のカフェ『Cafe De Dango』とは
日本中の団子を食べ歩いた山田オーナーが、高幡不動尊の参道商店街にオープンした団子カフェ。
スタンダードから洋風スイーツ系・食事系などバリエーション豊かな約50種類の団子を、なんと世界各国のコーヒーと併せて食べるスタイルを提案。
あんこマスカルポーネ、ホワイトラムレーズン、あまおういちごホイップ、はたまた玄米ツナマヨや焼きカレーまで!?
『出没!アド街ック天国』『メレンゲの気持ち』『ぶらり途中下車の旅』『ビビッド』『ニュースバード』などメディアでも多数取上げられる人気店です。
しかしここではこのユニークなカフェの紹介をしたいだけではありません。
この店で山田オーナーが日々行われてきた改善ひとつひとつが、まさに「適者生存」戦略であり、「個人カフェの強さ」と言えます。
オープン直後は想定外のことばかり
Cafe De Dango(カフェで、だんご)の立地は、高幡不動駅から高幡不動尊へ参拝客が行き交う導線上にあります。
わたしがインタビューにお邪魔したときにも、店の前を行き交う多くの参拝客が。
やはり参拝の行き帰りに立ち寄るお客様が多いんですか?
実は、店前の人通り(通行客)はほとんど来店とは関係ありません。SNSを見てウチを目指して来てくれるお客様が多いんです。
サラリとおっしゃいましたが、オープンからお店が安定するまでには大変な苦労がありました。
開業して初めてわかった、「強烈な」人通りの増減
店の前を行き交う、数多くの参拝客がぱったりといなくなる。
賑やかな風景を目にしつつ、そんな想像ができるでしょうか?
お寺の参道にあるCafe De Dango。通行人が多いのはあじさいが咲く梅雨と紅葉が綺麗な秋、正月のお参りであるいわゆる観光のオンシーズンのみ。
それ以外のオフシーズンでは参拝客が激減するのだそう。
オフシーズンがあることは知っていても、まさかここまで人通りが減るとは山田オーナーも想定外。
出店候補として本物件を見つけたのはたまたまオンシーズンだったため、実際にオフシーズンの様子を目にすることなく開業したのです。
もちろん契約前に通行量調査は念入りに行ったものの、オフシーズンのチェックまではしていませんでした。
競合テナントも検討しているなか、物件契約前にそこまで長期間の調査はできないため無理もありません。
来店に影響を与える変動要因は、他にもたくさんある
季節や曜日・時間帯によって、人通りに差異があるのは珍しいことではありません。
前述の観光地のオン・オフシーズンはもちろん、オフィス街の平日と土日、学生の長期休みなどもそうですね。
そもそも来店数の差を生むのは、人通りの増減だけではありません。
例えば以前お手伝いした店舗では、季節によって視認性が全く異なり、来店に大きく影響を及ぼすこともありました。冬は視認性バツグンなのに、春・夏は視認性が悪くなり、全く店が見えず来店しないなんてことも。
近くに植えられている街路樹が落葉樹の場合、冬などは葉っぱもなく視認性が良くても、春夏の葉が繁る季節はお店が隠れてしまうのです。
こういった物件ごとの事情や、2度3度の調査では見えない事象が、開業後に少しずつ見えてきます。
さらにもう1つ、想定外が。
高幡不動尊に来る方は「団子」も「カフェ」もあまり求めていなかった
ほとんどの方が店を気にせず、高幡不動尊へ一直線なんです。
お参りに来る年配の方とお団子と相性も良いはずなのに、どうも人通りのわりに来店する客が少ない。
高幡不動尊にくる方の目的はあくまで、お参りや梅雨の紫陽花や節分行事であって、食事やカフェが一番ではないのです。
店の奥から店の前を通る歩行者を定点観測して、お店を一瞥もせず通りすぎる姿を観察して判明したそう。
開業したあとでも山田さんのようにちゃんと調査を行わなければ、気づかなかったことかもしれません。
「人通りのある場所」=「集客のしやすい場所」ではないのです。
物件を探している時に不動産屋から、「人通り多くていい物件ですよ」と売り込まれても鵜呑みにせず、人通りの数はもちろん飲食動機が起こりやすいかどうかの”質”の部分も見極めましょう。
店の前を通る人が、常に飲食店を求めて歩いているわけではありません。同じ人でも、その時の目的や気分はシチュエーションによって大きく異なります。
みなさんも心当たりありませんか?いつも店の前を通るけど、一度も行ったことがないお店がたくさんあることに。
人通りがあるといっても、他に強い目的があって単に通り過ぎるだけの場所では、集客が難しいのです。
計画通りに進まないからこそ、「計画」がある
飲食店経営は、計画通りに進まないことや想定外の連続です。
悪天候で来店客が減ったり、人が急に辞めたり、近隣にライバル店ができたり、近くの会社や学校で人の入れ替わりがあったり。
カフェを開業するだけなら、ある程度のお金さえあれば誰でもできます。お店を軌道にのせて維持していくためには、戦略が必要です。
なにより、数字(データ)に基づいて検証し、それをもとに次の一手を打つことが大事です。
現場の忙しさを理由にして、その場の感覚で対策を考えてしまうカフェ経営者も多いなか、検証するためのデータの取得を心がけている山田さんオーナー。
きちんとした計画や想定があるからこそ、現実とズレがあったときにそのズレに気付きやすく、速やかに修正ができるものです。
そもそも設備産業である飲食業は、いちど出店した場所からそう簡単に移転などはできません。
事前の想定とは異なるもしくは変化する経営環境に適応するため、新規のメニュー開発や異なる集客方法に取り組んできた山田オーナーの経営手腕が光ります。
(来店してくれるお客様は)SNSを通じて知っていただいた方がほとんど。そうであれば、どのようにしてTwitterやFacebookなどのSNSを通じて魅力を感じてもらえるのか?日々研究です。
日々の実験は店舗経営に関わる様々な箇所で繰り返されています。わざわざ来てもらうために目的性を高め、広く認知してもらうためにはどうしたらいいのか。
「どうすればマスコミに取り上げてもらえるだろうか?」と、いろいろと知恵を絞った結果として複数のTVや雑誌の取材が舞い込んだのです。
Cafe De Dango紹介メディア(一部)
TBS 『ニュースバード』
TBS『ビビット』
テレビ東京系『出没!アド街ック天国』
フジテレビ系『ノンストップ!』
多数のメディアから取材を受ける人気店になるまでに、遠くからわざわざお店を尋ねるお客さんが増えるまでに、Cafe De Dangoが何をしてきたのか。
この2年間で行った工夫について紐解いていきます。
Cafe De Dangoの環境適応戦略
まずはお店の現状を数値で把握し、問題点を明確にすることが第1歩。
Cafe De Dangoでいうと、人通りが多いのにも関わらず来店が少なかったこと。
①お店の存在に気付いていない
②お店には気付いていて入店を検討した結果、入らない
③お店があることは知っているが、入店を検討すらしていない
それぞれにおいて打つべき策が大きく変わりますが、Cafe De Dangoではお店をチラ見する人はいても入店を考えている様子もあまりない、すなわち③。前述のように、そもそも参道客は飲食動機がそこまで強くなかったのです。
次の行動をより効果的なものにするために、数字での現状把握は不可欠。
そこでCafe De Dangoは、大きく方向転換を行いました。目の前の年配参道客から、目的を持って来店してくれる近隣の女子大生へ顧客ターゲットを変更したのです。
目的来店を増やすため、SNS映えする商品を開発
目的来店とは、「わざわざ」その店をめざしてお客様が来てくれること。逆に、通りすがりの入店は衝動来店。
店前通行客を観察し、参拝客の衝動来店はあまり見込めないことが分かり、目的来店客の獲得に力を入れることに注力しました。
Cafe De Dangoが取り組んだのは、TwitterやFacebookといったSNS。
SNSはお店からの情報発信はもちろん、お客様自身の投稿が情報の拡散と集客に繋がります。
問題はお客様にどうやって「自然と」投稿してもらうか。Cafe De Dangoでまず取り組んだのは「写真映えする商品開発」でした。
写真(インスタ)映えする商品開発
Cafe De Dangoの商品は彩りも豊かで、団子ながら洋菓子のような華やかさが特徴。
今日はお休みだけどお天気予報の撮影があったので見学ついでにお散歩がてらお店に来ました‼お客さんとしては久し振りだー🎶
パンモンも南瓜レア🎃にしましたー‼‼うまうま(*´ω`*)さてこれからちょっとぶらぶらしますかねー(о´∀`о)#CafeDeDango pic.twitter.com/wR5YVSmvZ2
— ちょも★むー (@chomomuu) 2017年10月10日
いつかの #カフェ巡り #和カフェ #cafededango #高幡不動 pic.twitter.com/buPZ2kEgKk
— kumakumami (@mokamonana) 2017年6月6日
メニューもまだまだ試行錯誤を重ね続け、改善と提案を繰り返しています。
ちなみにメニューには、未だ大きく「もうすぐ準備中(写真)」の貼り紙。お店のさらなる進化を感じさせますね。
毎日が実験でなかなか完成に辿り着かないんですよ・・・
夏に提供したかき氷では、ボリュームを決めるだけで一苦労。
アルバイトさんに協力いただき、どれほどのボリュームなら驚きを伴う大きさを感じるか、どうすれば写真を撮りたくなるか研究しました。
試作をしてはアルバイトさんへ見せ、率直な感想をもらい、盛り直りし、再び意見を聞き…
こういったことの積み重ねで今のCafe De Dangoがあります。
その試行錯誤から生まれた竹炭ゴシック氷は、見た目・味ともにインパクトがあるヒット商品。
新作第二弾は【炭】です。
インスタ映えとか関係ねえ!と言わんばかりの漢(おとこ)らしい一品ですが、炭の作用なのか、だいぶ時間が経ってもなかなか氷が溶けないので、むしろ写真に収めやすくなっているという、矛盾を孕んだ闇深いかき氷です。
闇の力を吸収したい方はどうぞ☻ #ゴスラテ pic.twitter.com/uslNUuszfc— Cafe De Dango (@CafeDeDango) 2017年8月22日
るしあん珈琲氷、これはいい。#cafededango pic.twitter.com/O9gAyLRIfO
— わたり (@watariku_Tri) 2017年8月28日
Cafe De Dango@高幡不動(日野市)でかき氷「ゴスノス」を注文。高幡不動尊参道にある団子カフェ。定番ノスノス氷に食用の竹炭を合せゴシック調(?)に。味には影響がないとはいえ、甘くスパイシーなノスノス氷は唯一無二の味わい(*^^*) #かき氷 #東京都 pic.twitter.com/FKShnnZfQN
— 初訪で限定のナカジ (@nkjmktr) 2017年8月26日
来店の波には逆らわない
来店が少ない時間帯はどうやって集客を強化しようか、それが一般的な考え方。しかしCafe De Dangoでは、異なる戦略を選びました。
人通りの少ない時間帯は、ムリせず店を閉める。
人通りの増減が激しい立地で、余計なコストを避けるために考えた策の1つ。
店主1人でまわす店であれば人件費を気にする必要はありませんが、従業員がいると話は別。
Cafe De Dangoも通常は複数人のシフトを組んでいます。
法事などの影響で突然満席になることもあるため、常に少なめの人員で営業するのはリスクがあります。
しかし来店数の増減は、参拝のオン・オフシーズン以外にも急に起こることもあり、予測もできません。
当日の急なシフト調整をどう行ってきたのでしょうか?
シフト調整は、採用募集の形式とスタッフ理解が重要
シフトが入ってたから店に行ったのに、早帰りさせられた
月5万円は稼ぎたいのに、これだといかないなあ
店を閉め、早上がりしてもらうことはスタッフのバイト代が減ることに他なりません。不満が出てもおかしくないですよね。
スタッフのシフトへの不満は、辞職・退職の原因にもなりかねません。人手不足の今、再度募集をかけて採用するのも簡単ではなく、コストも手間もかかります。
Cafe De Dangoが「人通りの少ない時間帯は、店を閉める」という大胆な作戦をとれるのは、スタッフの理解があってこそ。では、そのような人材を獲得できたのは、教育ではなく募集の方法に秘密がありました。
アルバイト募集媒体を使わず「自店で募集したこと」が、功を奏しています。
anでもタウンワークでもバイトルでも、アルバイト情報誌・ウェブサイトを思い浮かべてください。
1つの店の採用募集スペースは本当に狭く(情報誌なら7センチ×4センチ)、数多くの募集先が横並び。お店の内容などあまり知ることなく、時給やアクセスの「条件を見比べて応募」しているに過ぎません。
独自で募集すれば、どんなお店かより詳しく伝えることができます。どのような店にしたいか、どういった方針でやっていくのか。その結果、『お店のコンセプトに賛同した人』に働いてもらえることに繋がります。
お店を大切に思ってくれる人に働いてもらっているからこそ、急な早上がりにも理解が得られやすいのです。
Cafe De Dangoでは4枚に渡る募集要項を作成。
募集の時点から以下のような工夫がされています。
- 早上がりがあると明記
- 営業時間が不規則な理由を説明
- どんな職場か雰囲気も記載
【アルバイト募集】
本日よりアルバイトの募集を開始致しました。
ご興味のある方は、募集要項(4枚)をご覧のうえ、ご応募ください。#cafededango pic.twitter.com/RBHMmLxuhV— Cafe De Dango (@CafeDeDango) 2017年5月21日
ちなみに、バイト募集開始から10日後には採用が決定しています。
Cafe De Dangoはまだまだ進化中
まるでお店は「実験室」。
楽しみながら店を完成形に近づけている姿を見て、私も楽しい気分になりました。
日々移り変わる商売環境にも柔軟に対応してきた山田オーナーと、これからも進化していく「Cafe De Dango」。次にお伺いする時も、新しいお話が聞けそうで楽しみです。
■【水珈琲茶店】Cafe De Dango(カフェで、だんご)
東京都日野市高幡145
京王線「高幡不動駅」から徒歩1分
TEL:042-506-5699
営業時間:土日祝11:30-19:00/平日13:30-19:00
(ラストオーダーどちらも18:15)
定休日:不定休 ※Twitterでご確認下さい
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東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。
また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど豊富な経験を持つ。
その後、株式会社M&Aオークションの立ち上げに携わり現在に至る。
「店舗そのままオークション」の創立以来、年間100店舗以上の開業に携わり、支援した数は500店舗を超える。
現場思考のサポートに定評があり、顧客からの信頼も厚い。