皆さんは「行列ができるラーメン店」と聞いて、どんなお店を思い浮かべるでしょうか?
ラーメン好きの方ならパッと思い浮かぶお店がいくつかあると思いますが、今回はそんな行列ができるラーメン店として有名な桜上水船越の船越オーナーにお話をお伺いしました。
2023年1月のオープンから、口コミやsnsでまたたく間に評判が広がり、近所の人がびっくりするぐらいの大行列に。
その後、「テレビ」や「雑誌」など数々のメディアに取り上げられ、2023年10月に発売されたTRYラーメン大賞では【TRY新店大賞】を受賞するなど、輝かしい実績を挙げられています。
そんな傍から見るととても順風満帆に見える船越さんですが、実は開業に至るまでには知られざる苦労や苦悩がありました。
「桜上水船越」で 提供されているラーメンの特徴やこだわり
(左)桜上水船越 船越節也オーナー (右)開業コンサルタント 大森 智幸
(大森)今日は行列ができるラーメン店として有名な「桜上水船越」さんにお邪魔して、オーナーの船越さんに少しお話をお伺いしていきたいと思います。船越さん、今日はよろしくお願いします。
(船越)よろしくお願いします。
(大森)まずは提供されているラーメンの特徴とかこだわり等についてお話いただければと思います。
(船越)ラーメンの「大衆性」というか、どこにでもある食材で美味しいラーメンを作るっていうのを最初に決めていて、高級食材を使った本当にもう上品で綺麗なラーメンっていうよりも、もう何も考えずに「ずるずるっ」っと食べて「うめぇ!」みたいな、「大衆性」「B級グルメ」っぽさみたいなものを表現したものを出したいなと思って。
で、今は、「塩」と「醤油」でワンタンメン風に出してるって感じですね。
塩ワンタンメン
飲食業界に入るまで
(大森)これまで、独立に至るまでに色々苦労はあったと思いますが、その辺りの経緯を簡単にお伺いできればと思います。
(船越)最初、東京に来た時は、音楽業界の仕事に少し関わってたり、その後はアミューズメント業界だったり、電気屋さんで家電を売ったり、で、そこの派遣みたいなこともやったりって感じでした。
飲食店で働いたことは無かったんですけども、30歳ぐらいの時に勤めてた会社を辞めることになって、その時に「手に職をつける」じゃないですけど、会社がなくなっちゃったり、お店がなくなっちゃったりすると、仕事を変えなきゃいけない、探さなきゃいけないなってなった時に、何もこう手に職がない状態っていうのもちょっと不安もあったり。
業界の仕事に戻るか、好きなことを仕事にしたいなと強く思ってたので、ラーメンの仕事やったことないけどどうなのかな?と思って、試しにやってみようって思ったのがきっかけでした。
(大森)最初は募集がかかってるラーメン店にアルバイトとして入られた感じですか?
(船越)そうですね。最初はまず1回働いてみようと思って、社員希望ではあったんですけど、アルバイトの採用でってお店があって、そこはちょっと都合があって辞めちゃったんですけども、その後にもう一度やっぱりちゃんと「ラーメン」をやってみたいなと思って、修行先である「渡なべスタイル」に入ったって感じです。
(大森)「渡なべスタイル」さん、ラーメン業界ではたくさんの繁盛店を生み出してる有名な会社さんですが、結果的には何年間そこでお仕事されたんでしたっけ?
(船越)12年9ヶ月在籍しました。
お店をオープンする際の味決めだったり、いろんなお店で出す通常メニューとは違う限定ラーメンを何種類も作ったり、そのお店のプロデュース業務、立ち上げとかもあったりとか、色んなことやってましたね。
(大森)そういった経験を踏まえて、最終的には独立開業されたのですが、自分のお店持ちたいっていうのはいつぐらいから考え始めた感じですか?
(船越)最初のうちは「自分のお店を持ちたい」とは全く考えてなかったんですけど、やっていくにつれて「知識・技術」が増えていくと、僕にもできるんじゃないかなとか、自分のラーメン作ってみたいなとか強く思うようになってきました。
(大森)独立開業を意識し始めて、実際の開業に向けて具体的に動き始めたのっていつぐらいのタイミングでしたか?
(船越)10年ぐらい経ったとこで40歳を超え、結構体力的な衰えみたいなのもだんだん仕事で感じ始めて、もし自分のお店持つんだったら、早くしたいなっていう気持ちがだんだん出てきたって感じでしたね。
物件を探す苦労の話
(大森)お会いした時にはもう既に物件探し始められていて、その前の年の7月ぐらいから探されていたっていう話で、「物件が見つからない」っていうご相談から受けさせてもらったと思うのですが、その間、大体7~8か月、物件を探していらっしゃったということになりますね。物件探しは、どんなところで苦労してた感じでしたか?
(船越)僕が住んでるのが吉祥寺、三鷹あたりだったんで、そこで最初探して、激戦区というか、結構人気で家賃も高い物件が多かったり、そもそも物件がなかったりとか、そういうエリアだったので、だんだん中央線一帯を探すようになったんですけど、中央線も人気だったので、まずそこ(物件が取れないということ)がわかってない。あっても取り合いだったり、そもそもラーメンがダメだったりとか、(物件取得の)競争に勝てなかったりするので、ちゃんと考えないとダメだなと思って、「払える家賃」とか「条件」を考えると、もっとエリアを広く探さないと見つからないなっていう風にだんだんなってきた感じです。
(大森)特にラーメン店って物件探しには、皆さん苦労されて、予算にも限りがあるので、「自分にとってどういう物件が最適なのか?っていうところを整理していくと探すべき物件が見えてくる」みたいなところがありますね。相談後、物件探しの考え方として変わったポイントみたいなところはありますか?
(船越)アドバイスをして頂いて、細かい数字のシミュレーションを重ねていくと、「この家賃だと無理だな」とか、「この物件だとそもそも改装でお金がこれぐらいかかっちゃう(=予算オーバーになる)」などと考えていくと、探すべき物件がかなり絞られていきますね。
(大森)「匂いとか煙の問題」で家主さんから比較的嫌われる業態なので、そもそもそれが許容してもらえる物件でないと出店できないので、「前のお店がラーメン店に近い業態(居抜き物件)」であれば、「匂いとか煙の問題」は発生しにくいですし、かつ「投資金額を抑えられる」ので、そういった物件を広いエリアで探していきましょうっていうお話をさせて頂きましたね。実際に開業された「桜上水」の物件が見つかって、契約に踏み切る時に決断が必要だったと思うんですけど、決められたポイントがあれば教えてもらっていいですか?
(船越)まず場所が家からも通える場所で、馴染みのある地域で、知ってる場所だっていうのが1つと、条件的に元々うどん屋さんだったんですけど、「ラーメン屋に近い設備」がある程度備わってた。あとは駅からも近くて、いろんな人に認知されやすいんじゃないかなっていうのはあって、家賃的には想定してたより少し上(高い)だったんですけど、「やる価値はあるんじゃないかなと思って」(ここに)決めました。
(船越)ちょうどこの「桜上水」が飲食店の数、結構少ないんで、これもチャンスだなっていうのがありました。
オープン日程が延びる
(大森)今回は「物件契約」のサポートと「資金調達」のお手伝いもさせていただいたんですけど、資金調達は比較的スムーズでしたよね。
(船越)そうですね。
(大森)船越さんのこれまでの経歴がしっかりしてらっしゃるので、事業計画作りはお手伝いさせてもらいましたけど、面接もかなりスムーズで、(物件)契約前に融資も決まって、安心して物件の契約に進めることができましたね。その後、改装工事が1ヶ月弱ぐらい、10月にはもう改装は終わっていていましたが、ただ、実際にオープンしたのは1月明けてからですね。その間3ヶ月ぐらいありましたけど、オープンが先に延びたっていうのは、どういう経緯でしたか?
(船越)やりたいラーメンの味、ビジュアルも含めて決めてなくて、「なんとなくこういうもの、ここを大事にしたラーメン」っていう漠然としたイメージだけある状態で、それがこう、すぐ作れると思ってたんですね。
実際に作ってみて、同じような競合の人気のある個人店でいろいろ食べ歩いて、改めてチェックしてみると、東京の今のラーメンのレベルの高さに「あれっ?」と思っちゃって、そこからこう、どんどんどんどん、作っても作ってもダメなんじゃないかと(考えが)悪い方向に行っちゃって、だいぶ延びちゃいましたね。
(大森)ラーメン業界をよく知ってるからこそ、「中途半端なことができない」というか。
(船越)あとは修行をしていた「渡なべスタイル」の先輩・兄弟子も含めて、長く続けていて、味も美味しく評判にもなってて、プレッシャーを急にこう、どんどん、どんどん悪い方向に感じてしまって、今出してるラーメン決めるのも、1ミリも想定できていないものができてるんで、いろんなラーメンをこう、迷走して作って、あそこにたどり着いた…「これでいくぞ!」とか、「これで完成した!」っていうよりも、「もうこれでやるしかない・・・」みたいな感じで、結構追い詰められた状態で、最初の頃はもう「これでやるしかない」って毎日やってる感じでした。
実際にオープンしてみて
(大森)不安もありながら、いつまでも開業しない訳にもいかないしっていうところで・・・、でも、結果的にはオープン初日から行列ができる状態になってたと思うんですけど、最初に来てくれた方って何を見て来てもらってた感じですか?
(船越)自店のSNS、twitter(当時)で告知をしていて、あとは師匠がtwitterとかyoutubeをやってる方なので、そっちで広まっていったのも大きいのかなという感じですね。 また「あそこに人が並んでるよ」、「じゃあ行ってみよう」という人も多かったですかね。その「ここに並んでるよ」「行ってみよう」っていうのが、ずっとこう、うまく続いてるというか、「本当にラッキーなのかな」っていう部分も自分で思うんです。
(大森)実際、私も口コミとか食べログも含めて見させてもらってますけど、評価が高いというか、順調に口コミが増えていて、ただ、ちゃんとしたラーメンを出して評価が高くないとそういう状態(=ずっと行列が続く状態)にはならないので、これまでの「苦労」が実った形かと思います。
(船越)本当にありがたいお話なんですけど、たまたまメディアの取材とか、ラーメン業界のインフルエンサーの方とか、編集の方とか、テレビ局の方など、 元々いた会社の繋がりもあるので、そういういろんな方から、例えば取材させてくださいとか、撮らせてくださいとか、お声がけをすごくいただきやすい環境だったっていうのはありがたい話なんですけど、うまく拾っていただいてるんじゃないのかなとは思います。
(大森)本当に美味しいラーメンじゃないと、メディアもやっぱり取り上げないですし、2023年にオープンしたお店の中で、すごい注目のお店っていう形でよく取り上げられていらっしゃいましたけど、(プロやラーメン通から見ても)評価の高いラーメンを作らないと、そういう状態にはならないので、それだけラーメンに情熱を持って、良いラーメンを作られてるからだと思います。
(船越)ただ、自分の中では全然まだ自分の表現したいものとか作りたいものっていうか、「完全にこれだ!」っていうものにまだ全然到達はしてないので、まだ道半ばというところです。
これからの展望について
(大森)まだ完成系じゃなくて、これから更に改良していきたいっていうのがあると思うんですけど、これから先の「目標とか展望」みたいなところでお話できる範囲でお話し頂けますか?
(船越)元々、本当は色々なラーメンを、期間限定だったり、休みの日を利用したりして、「このラーメンだけで1日営業します」とか、いろんなラーメンをいろんな形で出したいなと思ってまして、例えば「夜だけ違うラーメン出す」とか、今は塩ラーメン1本だけになっちゃって、今はそれをやるのにもう一生懸命なんですけど、ここからは、自分が本来やりたかった「いろんな味のラーメン」を出して、「ラーメンってこんな味も、こんな味もあるんだ!」とか、「こんな食べ方もできるんだ!」とか、そういうラーメンの面白さに気づいてもらえるようなものをどんどん出していきたいなっていうのがあります。
行列ができるお店の特徴
(大森)船越さんから見て、(船越さんのお店みたいに)お客さんに支持されて「行列ができるラーメン店」になるポイントというか、共通点みたいなものって何かありますか?
(船越)自分もこれが正解かどうかって言われるとちょっとわかんないんですけど、美味しいっていうのはもう東京では当たり前で、「記憶に残るだとか、いろんな人に伝わる」ような物を作らなきゃいけなくて、美味しいだけでもダメだし、奇抜なだけでもダメだし、自分の作るものが東京の他のお店と比べた時に「冷静に見れる目と知識」というか、そういうものがないと難しいっていうか、厳しいというか、リスキーだと思います。
(大森)その地域の中で美味しければ行列ができる状態にはなかなかならなくて、本当に「東京全域が競合」みたいになってくるので、その中で勝ち抜いていくためには、他のお店と違う部分であったり、ここは強いっていうのがなければやっぱり難しいところあるかもしれないですね。
(船越)「材料費の高騰」というのは耳にしたことあると思うんですけど、いろんなものが高くなってるし、個人店をやるには本当にどんどん厳しい時代になってると思うので、実際、僕も「繁盛してる」っていう風に言っていただけるんですけど、決して楽な状況ではないというか、楽観視も全然できないですし、厳しいことだらけなので「戦略」とか「知識」とかいろんなものがあった方が安心だと思います。
ラーメン店開業を目指す方へ
(大森)これから「ラーメン店での独立開業」を目指そうとしている方に、アドバイスを頂いてもよろしいでしょうか?
(船越)僕からなんか言えるほどそんな大したことはやってないんですけど、自分のラーメンがどれぐらいの水準のものなのか、 客観的に周りのレベルを食べ歩いたりして知るってのも大事なんですけど、それとは、ちょっと矛盾してるようなんですけど、「自分の好きなもの、自分の好きな味」とか突き詰めるってのも大事で、やっぱり1番の原動力はそこだと思うんですよ。
「こういうラーメンが好きなんだ」とか、「こういう味が好きだ」とか、「これが俺はやっぱ作りたいんだ」っていう気持ちがまずないと、客観的に見て「これやればウケるだろう」だけでは戦略としては正しくても、やっぱそこに自分の気持ちとか思いみたいなものが乗らないと、長く続けていくこととか人に届けることって結構難しいと思ってて。最終的には自分が「これを作りたい」「これが好きだ」っていう強い気持ちが一番大事だと思います。
(大森)やっぱり自分が好きだっていうことが源泉にないと、精神的にしんどいってのはありますよね。
(船越)乗り越えられないというか、やっぱり今でもきついとこはやっぱりきつくて、(仕事している)時間も長いですし、楽できるところって、実際そんなになかったりするんです。なんだけど、やっぱ俺も「やりたい!」っていう気持ちがあるからやれるっていうとこがあって、そこが一番だと思いますね。
サポートを振り返って
(大森)当社の方で「物件探し」、「資金調達」とお手伝いさせていただきましたが、当社のサポートはいかがでしたか?
(船越)実際、本当に色々なことを助けていただいて、働きながらいろんなことをやらなきゃいけないし。あとは「知識面」も。自分の知らないことを一緒に、ただ手助けしてもらえるだけじゃなくて、知識もサポートしてもらって、そこはすごくありがたいです。時間がない、知識がないというところを助けてもらったので、それはすごくありがたかったです。
(大森)初めての開業って、わからないことがやっぱりたくさんありますよね。プロの力を借りてでもそこ(物件探しや資金調達)はスムーズに進め、オーナーさんは、自分がやるべきこと、ラーメンを作ったり、いいサービスを提供するっていうところに集中していただいた方がいいかなと思いますので、そういう環境作りに、少しでもお役に立てたのなら嬉しいなと思います。
(船越)「役に立つ」っていうと、ちょっと偉そうですけど、本当にありがたかったです。
桜上水 船越の店舗情報
店名:『桜上水船越』
業態:ラーメン
住所:東京都杉並区下高井戸1丁目21−10
アクセス:京王線桜上水駅より徒歩3分
営業時間:11:00〜15:00(水曜・日曜定休)
※営業時間は予告なく変更になる場合があります
オープン日:2023年1月15日
インタビュー動画: 以下からインタビュー動画をご視聴頂けます
編集後記(開業コンサルタント大森から見たポイント)
ラーメン店での開業をお考えの方であれば、おそらくほとんどの人が「行列ができるラーメン店」を作りたいと思っていらっしゃると思いますが、実際にそれを実現できるお店はほんの一握りしかありません。
船越さんをはじめ、これまで何店舗も行列ができるラーメン店の開業をお手伝いしてきた経験から、行列ができるラーメン店およびそのオーナー様に共通する特徴について少し整理してみたいと思います。
共通する特徴としては、
1.ラーメンづくりに並々ならぬ情熱を傾けていること。
2.ただ「美味しい」だけではなく、客観的、俯瞰的な視点で他店との明確な差別化ができていること。
3.投資や収支のバランスを考えた物件選びや出店判断をしていること。
4.そして、全て1人でやろうとせず、先輩の経営者や専門家のサポートを積極的に受けていること。
などが挙げられます。
チェーン店と個人店では出店戦略や成功要因が異なりますが、これから個人でラーメン店での開業をお考えの方で、少しでもご不安やご心配がある方は、ぜひ当社の無料相談や無料セミナーにお越しいただければと思います。
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