店舗経営において、失客を引き起こす悪魔にも、来店を生み出し続ける天使にもなりうるものとはなにか分かりますか?
飲食店経営に失敗しないために、料理の味やサービスの質は言うまでもなく大切ですが、味もサービスも入店して体験してもらって「はじめて」真価を発揮するもの。
店舗経営の成否は、入店する前から始まっています。
最初の一歩は、お店に気づいてもらって、かつ入店してもらえるかどうか。
そのために重要なのは料理などの中身ではなく、お店の外見・外観。
特に重要なのは、最初に目に入るその店の「看板(サイン)」。
雰囲気があるデザインやカッコよさを追求したデザインが、必ずしも店舗経営においての良い看板とは限りません。
看板やサインのもっとも大切な役割は、お客様の来店を増やすこと。
一日あたり10人ほどの通りすがり客が、店の目の前で入店に迷って立ち去られていた飲食店。看板デザインを変えるだけで、「月間の来店数が300人以上増える」なんてことが実際にあります。
言いかえると、ほとんどの飲食店は正しく看板を設置できていないだけで毎月300人以上を失客している可能性があります。入店率を高めて、集客アップに繋げる「無料自動集客マシーン」となる看板をどう作るべきか?
300店舗以上の店作りに携わってきた”儲かる”店舗作りのプロが、理想の看板・外装デザインについて解説します。
飲食店を中心に累計300店舗以上のデザイン・設計・施工管理に携わってきた内装工事のスペシャリスト。繁盛する店作りをモットーに、顧客視点のプランニングに定評。お客様の要望によっては無理に自社で施工を引き受けずに、顧客ニーズに合う同業他社を紹介することも厭わない。
看板のデザイン・素材を選ぶポイント
お客様に入店いただくために重要な看板。
ではどんな看板が、集客効果を発揮してくれるのでしょうか?
自動的に集客してくれる看板を作るために、考慮すべきポイントは以下3つ。
看板のデザインや素材を選ぶ前に、いくつかの重要なポイントがあることにご注意ください。
- どこにどのような看板なら出せるか
- 集客におけるマイナス要素があるか
- お客様にどのような印象を与えたいか
建物の制限:どこにどのような看板なら出せるか
どこにどのような看板が出せるかは店舗物件によって異なります。
店舗物件の契約前に、「看板の設置条件」をかならず確認するようにしてください。
賃貸借契約後に看板が出せないと分かっても、あとの祭り。想定していた通りすがりからの来店は見込みにくくなり、他の集客策などに余計な販促費をかけることになります。
だからこそ契約前に確認すべき点は4つあります。
(1)看板が設置できる位置
(2)看板種類の制限
(3)看板使用料の有無
(4)屋外広告物条例ガイドライン
(1)~(3)は家主様へ問い合わせで、(4)は都道府県または市のホームページで、それぞれ確認できます。
(1)看板が設置できる位置
ビルオーナー・家主様によって、考え方がまったく異なる部分。
集客に協力的でテナントの自主性に任せる方もいれば、町の雰囲気に合うかどうか看板やサインを厳しくジャッジする方も。
建物の雰囲気が悪くなるから、看板はどこにも出しちゃダメ
2F店舗は、エントランス部分に1行だけ店名を書いてもらっている。窓・壁面の利用は禁止
看板が「どこに」どのように」出せるかを事前に確認しましょう。
適切な看板設置ができなければ、通りすがりからの集客に苦戦します。
(2)看板種類の制限
建物に看板をビスで止めてはいけないなど、施工方法を制限していることがあります。
そうすると、出せる看板の種類が制限されます。
例えばビス止め不可だった場合、重い看板は付けられません。インクジェットプリント、カッティングシートなどの貼りものを中心に検討を進めていきます。
また、建物が敷地いっぱいに建っていると「看板が道路にはみ出さないようにしてほしい」と要請されることも。
その場合、厚みの無い看板を検討する必要があります。
物件ごとに大きく状況が異なるため、都度確認するようにしましょう。
(3)看板使用料の有無
家賃とは別に「看板使用料」が必要な店舗物件もあります。看板使用料の有無についてなど不動産会社に契約内容を確認をしておきましょう。
(3)屋外広告物条例ガイドライン
看板設置にあたっては屋外広告物の規制があるエリアがあります。
看板設置できないエリアがあったり、種類を制限している場合もありますので設置にあたっては注意して下さい。
都道府県や市が景観形成や安全管理のため、条例を定めています。
(参考リンク)
東京都都市整備局 屋外広告物
大阪府 屋外広告物に関すること
お店の認知を邪魔するようなマイナス要素があるか
店舗看板における最初の重要な役割は、お店があると気づいてもらうこと。
お客様の認知を阻害するマイナス要素をあらかじめ洗い出して、看板で解決できるか検討します。
店舗の認知を阻害するマイナス要素は、以下のようなものが代表的です。
①空中階や地下の店舗のため、店前を通る人から気付いてもらえない
⇒遠くからでも気付いてもらえるよう、大きく目立つ看板にする
②周囲に街灯が無く、暗い
⇒暗くても文字が読めるよう、電飾看板などの明るさを伴った看板にする
③周りに多く看板が出ており、埋もれてしまう
⇒色や形で差別化し、お客様から見つけやすいものにする
上記のように立地や建物にどのようなマイナス要素があり、それを解決できる看板はどれかを検討しましょう。
無事にお店の存在に気づいてもらえる算段が立てられたあとは、次のポイントについて考えます。
お客様にどのような印象を与えたいか
お店の魅力(コンセプト)が入店前に伝わるよう、看板も店の雰囲気に合わせましょう。
看板を見たお客様に、自店舗についてどのような印象を与えたいか検討します。
①隠れ家的な雰囲気がある落ち着いた店にしたい
⇒サインや看板のサイズは小さめ。雰囲気を演出できるように材質にこだわったもの
②大衆的ではなく高級感とスタイリッシュな雰囲気の店
⇒立体的に文字を浮き上がらせる・金属の質感を利用する、など
自店舗のイメージにあった看板の種類とは
取り付ける看板によって効果・雰囲気が大きく異なります。下記を参考に、目的に合った看板を選んでいきましょう。
①夜間まで営業するため、暗くても目立つ光るものにしたい
⇒電飾看板・ネオンサイン
②コストを抑えたい
⇒インクジェットプリント・カッティングシート切り文字・アルポリ(アルミ複合板)切り文字
③文字を立体的にして、迫力を出したい
⇒カルプ文字・チャンネル文字
④客単価が高いお店など、高級感を演出したい
⇒腐食看板
➄木の持っている温かみがほしい居酒屋・和食店
⇒木製看板
⑥おしゃれなヨーロッパの雰囲気を出したいイタリアンやフレンチなど
⇒アイアン看板
⑦手書きの温かみやラフさがほしいバルなど
⇒描き文字
⑧目玉商品や季節限定メニューをアピールしたい
⇒懸垂幕
⑨日よけ・雨よけ用のひさしを設置したい
⇒テント
続いて、それぞれの看板ごとのメリット・デメリット解説します。
①夜間まで営業するため、暗くても目立つ光るもの
電飾看板
この種の看板は、置き型看板・袖看板・突き出し看板・壁面看板など、さまざまな箇所で活用されます。
使われる素材はアクリルやFFシート(看板用のテント生地のようなもの)など。
素材の違いとしては、アクリルの方が透過率が高く、LEDや蛍光灯の数が少なくて済みますが大きいサイズでは使用できません。
FFシートはアクリルに比べコストが安く、大きいサイズの看板も作ることができます。
▼メリット
明るく、お客様の目に止まりやすい。
▼デメリット
突き出しかたや厚みによっては敷地より出てしまうことがある。
ネオンサイン
ネオン管を曲げて制作するサインです。ネオン管ならではの鮮やかな色味が特徴です。
レトロな雰囲気を出したい場合にも活躍します
▼メリット
レトロな雰囲気の演出ができるため、店舗によってはすごくハマる。
▼デメリット
ネオン管が割れやすい。感電・火事の危険性がある。
②コストを抑えたい
インクジェットプリント
インクジェットプリンタで印刷するプリントの総称。さまざまな素材に印刷することができるのが特徴です。
素材は塩ビシート、ターポリン、金属、布地などが使われます。
▼メリット
平面で、かつデータの監修・デザインがしやすく安価。
▼デメリット
ガラス面にシートを貼ると、熱でガラスが割れることがある。
変色劣化が起こるので、定期的なメンテナンスが必要(塩ビシートなど、UVラミネートが付いていても日の当たり方によっては3年ほどで色が飛ぶ)。
カッティングシート(CSシート)切り文字
塩ビシートを文字・図形に切り抜いたシール状の貼るサインで、窓に貼ることも可能。
主な素材は塩ビシートです。
▼メリット
コストが安いので、気軽に交換しやすい。
▼デメリット
使用できる色が限定されている。
アルポリ(アルミ複合板)切り文字
アルミ複合板を切り出して貼り付けるサイン。3mmまたは5mmと厚みがあるため、立体感が出ることが特徴。
素材はアルミ複合板が使われます。
▼メリット
コストが安い。3mmと5mmのものがあり、カッティングシートよりもしっかりしている。
▼デメリット
3mm以下の線は切り出しが難しいため、デザインに制限がある。
③文字を立体的にして、迫力を出したい
カルプ文字
カルプボードを切り出して制作した立体文字のサイン。
15mm・20mm・30mm・50mmなど色々なサイズの厚みがあります。
カルプ文字は発泡ウレタン樹脂を使っており、金属と比べ、色付けや加工がしやすい反面、チープな感じが出てしまいます。
素材:ウレタン樹脂のカルプボード
▼メリット
厚みが出る素材の中では、コストが安い。
▼デメリット
同じ厚みのあるチャンネル文字に比べ、チープな感じになりやすい。
制作にあたっての注意点:あまり細い線は制作ができず、3mm以上の幅が必要。
チャンネル文字
金属やアクリルなどを加工した立体文字で、LEDを入れて照らすこともできます。縁なし内照式文字・カプリング文字・バックライトチャンネル文字など種類も多様。
素材は、ステンレス・亜鉛・サンロイド・アクリルなどが使われます。
▼メリット
耐久性が高く、高級感もでる。
▼デメリット
同じ立体文字であるカルプ文字と比べると価格が高い。
制作にあたっての注意点:あまり細い線は制作が難しい。5mm以上は必要。
④客単価が高いお店など、高級感を演出したい
腐食看板
金属プレートを薬品で腐食させてエッジング加工するサイン。耐久性に優れ、高級感のある仕上がりになります。
素材は、ステンレス・真鍮・銅。
▼メリット
ステンレスにシートを貼ったりするよりも伸縮が少なく、品質を保ったまま、長期間使用できる。
▼デメリット
真鍮・銅は変色しやすく、メンテナンスに手間がかかる。
➄木の持っている温かみがほしい居酒屋・和食店
木製看板(木彫り看板)
一枚板に文字などを彫り込むサイン。天然素材ならではの表情があり、あたたかみのある看板になります。
素材はもちろん木材です。
▼メリット
趣がある。
▼デメリット
劣化しやすく、割れやすい。
⑥おしゃれなヨーロッパの雰囲気を出したいイタリアンやフレンチなど
アイアン看板
ヨーロッパで発展してきた看板。アイアンを加熱し、叩き、曲げて制作します。
ロートアイアンならではの美しい曲線や重厚感が魅力。
素材は鉄です。
▼メリット
アンティーク調の雰囲気を演出しやすい。
▼デメリット
デザインによっては制作できない場合がある。
⑦手書きの温かみやラフさがほしいバルなど
描き文字
壁面などに直接塗料で文字やロゴなどを描く看板。プリントやカッティングシートが均一的なのに対し、手書きの風合いを出せます。
素材はペンキのみ。
▼メリット
色褪せた場合でもペンキ屋さんで対応できるのでメンテナンス性がいい。上からペンキを塗ればすぐに消せる。
▼デメリット
ペンキがのる下地に限られる。
⑧目玉商品や季節限定メニューをアピールしたい
懸垂幕看板
店名や商品写真・広告文を印刷して使用する垂幕。
メインの看板と併用し、メイン看板には店名、懸垂幕には店のウリなどそれぞれ記載することもできます。交換しやすいため季節ごと、イベントごとのアピールに使うこともできる。
素材は、ターポリン・布・メッシュなど。
▼メリット
コストが安く交換も簡単なため交換しやすい。大きなサイズで作成することができるので目立つ。
▼デメリット
建物に対し垂直方向に設置すると強風で生地が破れる可能性がある。
⑨日よけ・雨よけ用のひさしを設置したい
テント
テントに店名などを印刷や貼り付けを行った看板。日よけ・雨除けを兼ねながらお店の宣伝ができます。
素材はターポリン。
▼メリット
プリントでもできるのでデザインが豊富。
▼デメリット
カッティングシートの切り文字などを貼り付ける場合剥がれることがある。日差しにさらされるため、プリントした色が飛びやすく、3年程度で色が飛ぶ場合がある。
お客様を入店に導く看板づくり
「どのような看板を選ぶのか」が決まったら、「看板に何を書くか」を考えていきましょう。
店の近くを歩くお客様にいかに入店してもらうか。単に店名を書き入れるだけではありません、入店まで導くストーリーを作っていきましょう。
通りすがりのお客様がお店を見つけ、入店するまでには3つの工程を経ています。
①お店の近くを通る
②お店に気が付く
③入店するか決める
1つ1つ分解して①〜③の段階ごとに考えていくと、より多くの集客につながることがわかっていただけるはずです。
①お店の近くを通る
⇒店前の通行量です。物件選定で決まります。(母数)
②お店に気が付く
⇒看板の視認性で確率が変わります。(認知率)
③入店するか決める
⇒看板の内容で確率が変わります。(来店率)
店前交通量はコントロールできませんので、あとの2つは看板やサインが影響を及ぼします。
認知率・来店率が高いほど、集客ができる効果的な看板。
この認知率・来店率は、「遠視・中視・近視」の考え方で改善できます。
「遠視・中視・近視」でお客様を導く
「遠視・中視・近視」のセオリーを知っておくと、来店までの行動順にメッセージを発信できます。
それぞれの距離は「遠視」は30~50m、「中視」は5~10m、「近視」は店舗の目の前。
(遠視)店まであと30m
(中視)店まであと10m
(近視)店前
発信すべきメッセージ内容
・遠視:30~50m
▼お客様に促したい行動
お店の存在に気づいてもらう/なんのお店か知ってもらう。
▼伝えるべきメッセージ
あそこに店があるという存在を認知、大まかな業態内容を伝える。
・中視:5~10m
▼お客様に促したい行動
どんなサービスか知ってもらう。
▼伝えるべきメッセージ
サービス内容・特徴。
・近視:店舗前
▼お客様に促したい行動
不安を取り除く・入店動機をもつ
▼伝えるべきメッセージ
店の雰囲気・価格。
毎月300名のお客様を逃し続けているお店は多い
店の前まで来ているのに、入店するか迷って、立ち去ってしまうお客様は一日に何人いるでしょうか?
もし、そんな失客が一日に10人あるのなら、ひと月で300人近くのお客様を失っていることに。
これは単純計算でも大げさな話ではなく、よくある話なのが恐ろしいところ…
自慢の料理をより多くのお客様に味わってもらう準備として、店舗経営の成功の最初の入口として、店舗
看板や外観について戦略的に考えることをおすすめします。
株式会社店舗内装 設計リーダー 古浦 健一郎
TEL:03-5956-3177
MAIL:k.koura@ma-auction.co.jp
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