「物件探しを始めて1年が過ぎて、本当にノイローゼになりそうでした」
こう語ったのは、日吉に和食店「飯場松の葉」をオープンした店主の松本久美子さん。
前回の記事(広告代理店キャリアウーマンが和食店で起業!そのしなやかな出店戦略を紐解く【飯場 松の葉】)も好評でしたが、今回は開業でもっとも苦労した「店舗の物件探し」について解説します。
この物件に出会うまで、1年半も物件を探し続けた松本さん。
なかなか候補の物件が見つからず、「開業できないかもしれない…」とくじけそうになったのも1度や2度ではありません。
・物件がまったく見つからず行き詰まった状態から、希望どおり地元日吉で物件を見つけ、和食店を開業できた。そのターニングポイントは?
・なぜ松本さんはボロボロの中華料理屋の物件を選んだのか?
松本さんが開業までたどってきた道筋を振り返りながら、個人店の飲食店開業に必要な「店舗物件探し 3つのステップ」について解説します。
広告代理店のキャリアウーマンが飲食店開業を目指す
「飯場松の葉」の店主である松本さんは、外食産業で働いていたわけではありません。
もともとは広告代理店でバリバリ働いてきたキャリアウーマン。約20年のサラリーマン生活に終止符を打ち、第2のキャリアとして飲食店開業を選びました。
思いつきで開業するのではなく、「まずは現場経験が必要」と飲食の世界に飛び込むべく、都内有名店で修行をスタート。
それまでにも料理教室の講師を勤め、料理に関して人並み以上の腕を持っていた松本さんですが、修行先で圧倒的な技術の差を目の当たりにします。
調理場を切り盛りするのは、料理一筋で20~30年やってきたプロ。
先輩方の卓越した調理技術に触れ、力の差を痛感せざるを得ませんでした。
あと10年、寝ずに毎日努力したとしても、経験20年の料理人さんにはとても追い付けない… 料理人として優れているからと言って、飲食店開業が必ずしも成功するワケではない。 飲食店をビジネスとして成立させるためには、企画、営業、売上管理、人材管理など、幅広い領域の知識・見識が必要なはず。 その分野においては、自分には20年のキャリアがあり、料理人一筋20年の一流料理人よりも、わたしの方がアドバンテージがあるはず! 想像よりずっと前職の経験が活かせる場面が多い。今までずっとやってきた媒体(雑誌やサイト)作りと店舗作りは驚くほど似ている。 どんな人がターゲット(お客様)で、その人たちにどのようなサービス(料理・空間)を提供するのか。企画を詰めていく工程が、媒体作りとほぼ同じ。
松本さんのスゴさは、現実をしっかり受け止めながらも、絶望したり、悲観にくれないところ。
逆に飲食業界に身を置いてみてわかったことがある、と語ってくれた松本さん。
この気付きが、脱サラ開業の成否を分けるポイントとなったのです。
厨房で調理技術を磨くだけでなく並行して、開業する飲食店の事業コンセプトを磨き上げていった松本さん。
プロの料理人と比較しながら、自分の強み・弱みを深く分析。綿密なコンセプトをつくりあげました。
目指すのは、忙しいビジネスマンがホッと癒される「和」のお店
松本さんがオープンした『飯場松の葉』は、ごはんと和のおかずにこだわる和食店。懐石料理のような華やかな場ではなく、肩のこらないホッとできる日常のひとときを提供するのがコンセプト。
炊き立てのご飯と出汁から作るお味噌汁とご飯によく合うおかずが味わえる『飯場松の葉』は、「元キャリアウーマンならでは」の発想と戦略で生まれたお店。
- 松本さんが伝えたい「和」の魅力
- 広告代理店で培った市場分析
- 忙しいサラリーマン時代の実体験
これらすべてがつまったお店です。
サラリーマン時代、「たまに夕食を取ろう」と思うと飲食店の選択肢が少なかったんです。 中華料理屋でレバニラ炒めにライスを頼むか、「てんや」の天ぷら定食か。 消費者の動向が変化している今なら、「手作り」「毎朝、出汁をとる」「化学調味料、不使用」は商売として武器になるはず。 同時に和の食事の持つ素晴らしさを伝えたい、という想いも叶えることができる!
夢をかなえるため、松本さんは「物件探し」をスタート。しかしこれが1年半におよぶ長い戦いの始まりでした…
物件探しをスタートしたものの、3カ月経っても手応えなし
2016年4月に物件探しをスタートした松本さん。
地元の日吉・元住吉エリアで開業すべく、物件をチェックし始めました。
居抜き店舗など物件情報サイトで探すだけでなく、ネットにない情報を求めて不動産会社にも直接足を運びました。
ほぼ毎日物件を探し続けますが、なかなか希望通りの物件に巡り合うことができません。
すぐに見つかるだろう、と甘く考えていました
候補になりそうな物件が出ることなく、無情にも時間だけが過ぎていきます。
このままでは物件が見つからず、開業できない
徐々に焦りを感じ始め、なんらかの打開策を探していたとき、あるセミナーが松本さんの目に留まります。
なんだかちょっと怪しいけど、何かヒントが得られるかも知れない…
それは当社が主催する開業者向けの無料セミナー、「物件探しの極意」。
物件を探してから半年経った2016年11月にセミナーに参加。そこで聞いた話は、松本さんにとって、衝撃的な内容でした。
8割の方が店舗の物件探しで苦労している
松本さんが参加されたのは、「物件探しで余計な手間とリスクを避ける」ための無料セミナー。
わたしどもは個人店から上場チェーンまで6000店超の出店サポートを行ってきましたが、開業希望者の方からよくご相談いただく悩みはこちらです。
「なかなか良い物件が見つからず出店できない」
「候補の物件は見つけたが、契約に踏み切れない」
「物件の検討や契約時に、気づかぬうちに不必要な損をしてしまった」
飲食店・美容室などの店舗ビジネスにとって、“どの物件でどういう条件で出店するか”はまさに生命線。
しかし店舗の物件探索は、そう簡単にはいきません。思うように物件が見つからず苦労する開業者・店舗経営者は80%以上にのぼります。
そのような不要な苦労を減らすため、わたしどもは多くの実例と現場で使えるノウハウを、社内外でお伝えしています。
『“失敗しないための”物件の探し方と、見極め方』の勉強会で、松本さんに衝撃を与えた内容とは?
理想の物件を探している限り、いつまでも出店できない
まずセミナーの冒頭で講師から伝えたことは、『100%理想通りの物件などない』という事実。
ここまで断言すると「本当に?」と疑わしいと思う人もいるかもしれません。例えば多くの出店者が欲しがる「人通りが多くて、家賃の安い1階路面店の居抜き物件」が本当に実在するかどうかを考えてみるとおわかりいただけます。
もしそんなものがあれば最高の物件かもしれまえんが、そのような物件は本当に見つかるものでしょうか?残念ながら現実的ではありません。
なぜなら、人通りの多さと家賃の設定額は比例するから。
集客しやすい優良物件は、賃料を高く設定しても入居者が後を絶えません。家主・貸主にとって家賃を安く設定する理由がありません。
貸主も商売ですし、周辺エリアの相場観が醸成・共有されている今、お宝物件にはまず出会えないと考えておくべきです。
人通りが多い=家賃が高い。
何度もお伝えしますがこれが現実ですので、人通りが多くて家賃の安い物件というのは、残念ながら存在しません。万が一そんなお宝物件があったとしても、契約更新で家賃が大幅に上がることは避けられないでしょう。
条件の7割を満たす物件なら、検討してみるべき
理想とする条件の6〜7割ほどを満たしていたら、それは前向きに検討すべき物件です。
ギャップの3〜4割のマイナスをいかに埋めるか。そこが経営者の腕の見せ所かつ、競合となる他の出店希望者との差別化ポイント。
内外装の作り方、メニュー構成、集客手法など、どのような手段でギャップを埋めていくかが重要です。「どの手段をとるか」によって、妥協できる条件が異なります。
理想とする物件とのギャップを埋めた専門店の具体例をご覧ください。
【実例】強い商品力・上手なPRで、アクセスの悪さを補ったスンドゥブ専門店
駅から徒歩10分の住宅街に出店した、スンドゥブ店。12坪17席のお店でコンスタントに250万円を売上げるようになりました。
特筆すべきは、損益分岐点の低さ。150万円の売上でも黒字を出せる経営体質。駅から離れ、賃料の安い物件だからこそ、営業利益率で30%を超える優良店となりました。
- 単一商品のため、オペレーションがしやすく2名体制でまわせる(売上に対し:人件費22%)
- 賃料の安い2等立地に出店し、家賃を押さえられている(売上に対し:家賃比率は7%)
店前の人通りは少ないため、通りすがりの来店はあまり見込めません。この店の集客のメインは、ほとんどがこのお店を目指して来る「目的来店」です。
専門店のためメディア受けも良く、「王様のブランチ」に取り上げられたことも。メディアで見たお客様やネットで調べたお客様が来店し、立地の悪さは問題になりません。
このように業態の強みや特徴によって、カバーできる部分は異なります。
物件の希望条件で「絶対に妥協できないポイント」はもちろんですが、「妥協できるポイント」を早いうちに明確にしておきましょう。
飲食店の物件探しには3つのステップがある
居抜きなど店舗物件探しをはじめてすぐに「良い物件」を契約できるのは、かなりレアなケース。楽観的に捉えてはいけません。
飲食店の物件探しには3つのステップがあります。
自分が今どのステージにいるのかを正しく把握し、1つ1つステップを着実に進めていくことが必要。
気付かないうちにステップを飛ばしてしまうと、店舗物件を見つかる確率を大幅に下げることになります。
意外と多いのは、これから解説するステップ1をスルーしてしまっている出店希望者。一生懸命物件を探しても見つけられない原因はもしかしたら、これかもしれません。
物件探しはまずはステップ1からスタートし、ステップ1をきちんとクリアしてから、ステップ2、ステップ3へと、順番に計画的に進めていくことが大切なのです。
ステップ1「事業計画から逆算して条件を洗い出す」
物件探しは「獲得すべき物件の理想と現実とのギャップ」を知ることからはじまります。
駅前・ターミナル駅・1F路面店など、やみくもに良さそうな物件ばかり見るのではなく、「自店にとっての」理想の物件はどんな条件が必要か、整理することから始めましょう。
目標とする売上規模や利益が得るために、どのような物件が必要でしょうか?獲得すべき店舗物件条件は、自店の事業計画をもとに考えます。
仮に、家賃比率の目標を売上に対して10%としましょう。月売上200万円が目標であれば、家賃は20万円以下に抑えたいところ。
あわせて初期投資についても検討します。
飲食店開業の総予算から逆算していきますが、運転資金も忘れずに確保しておきましょう。
飲食店で必要な開業資金の目安は以下の通りです。
①物件取得費
賃料の9~12ヶ月分、居抜きの場合は造作代金50~300万円
②内装工事・設備
スケルトン:50~80万円/坪、居抜き活用:5~50万円/坪
③開業諸経費
初期仕入:想定売上の30~40%、その他経費:50~200万円
④運転資金
月間固定費の6か月分
上記①〜④に加え、居抜き店舗の場合は造作譲渡料と手数料がかかります。
⑤造作譲渡料
造作譲渡料は前テナントから内装設備などの店舗造作を買い取る代金。
⑥造作譲渡に関わる手数料
取得対象がスケルトンではなく居抜き店舗の場合、造作譲渡の手数料を紹介元の業者に払う場合があります。
「現実的に取得できる物件と売上目標をすりあわせたもの」が探すべき物件の条件。
適切な坪数・ターゲットとする客層・利用シーンに適した立地環境・階数をまとめてみましょう。
これら物件探しの下準備ができたら、次のステップに進みます。
ステップ2「相場を知った上で物件を探し、検討する」
物件の内覧を申し込んだり検討に入る前に、まずは経済条件など相場の把握を行います。順に追って説明します。
家賃など経済条件の相場を知る
出店エリアをいくつか選定し、家賃相場をチェック。店舗物件サイトをチェックして、希望エリアの物件をピックアップしましょう。物件ごとに広さが違うため、比べる際は1坪あたりの価格(坪賃料単価)をチェックします。
坪賃料単価=賃料÷広さ(坪数)
駅に続くメイン通り沿いだと家賃は坪あたり2万円。少し奥まった場所の物件だと坪1.5万円程度に落ち着くなぁ。
メイン通りでも2階なら、坪1.6万円で物件が見つかりそうだ。
坪単価は、店舗物件の広さ(坪数)により上下し、一般的には10坪以下のような小さな店舗であればあるほど、坪単価は割高になっていきます。
特に20坪以下の店舗は、店舗運営しやすいサイズのため、個人開業者にも法人企業にも人気があります。
次は実際に調査した結果と、事業計画とのすり合わせです。さきほど事業計画をもとに考えた物件条件と乖離しすぎてはいませんか?
この差異を解消し、現実的な条件が作れたら、物件探しの下準備は完了です。
物件の相場感を養う
そんなこと言っても、場所が良くて家賃も安い物件もどこかにあるんじゃないの?
物件の相場や現実を目の当たりにするまで、夢見がちになってしまうのは仕方ありません。単に知識を知ることと、腹落ちして実感できるのとは差があります。
理想の条件を現実にあったものに変えていくためには、理想と現実とのギャップを正しく認識し、そのギャップを埋めていくプロセスが必ず必要になります。
そのギャップを埋めるもっともシンプルな方法は「店舗物件を100件、現地で見ること」。
インターネットで確認するだけでなく、実際の物件を見ると事前に調べた数字や相場を実感できます。もちろん100件という数字が重要ではなく、実感が伴うまでリアルな物件を見て目を養うというのが本来の目的です。
本当に「事業に適した物件」を見つけるためには、物件を探す前に知らなければいけないことが多くあります。ただ残念ながら、ほとんどの人が「なんとなく良さそうな物件」を漠然と探しています。
その結果、現実的に「ありえない物件」を探していたり、どの物件を見ても「良いのか悪いのか判断できず、決断できない」状況が生まれてしまうのです。
「飯場松の葉」の松本さんも現在の物件に決めるまで、30件以上の物件を視察し「相場感」を養ってきました。この「相場を知る」というステップを飛ばさないようにお気をつけください。
このように、具体的に開業に適した物件(=契約すべき物件)を探すためには、理想と現実のギャップを埋めておくことがもっとも効率的です。
探すべきエリア、相場、坪数、家賃、取得費、物件状態(居抜きかスケルトンか)が明確になっていれば、効率良く探すこともいざというときの判断も格段にしやすくなるからです。
ステップ1・2をこなす中で実感しますが、「100%理想通りの物件」など存在しません。探すべき物件の各種条件の中でも、きちんと優先順位を決めておきましょう。
事業を成立させるために絶対に妥協できないポイントと、工夫次第でカバーできる(妥協できる)ポイントをあらかじめ明確にしておくと、正しい判断がスピーディにできます。特に「妥協できるポイント」を知っておくことが、のちほど効いてきます。
物件検討には内装会社の協力が必須
「立地・経済条件」を踏まえ、検討に乗りそうな物件は内覧を行いましょう。内覧では、現地でしか得られない情報を確認し、出店までの予算立てを行います。
店舗完成までに、必要なものをチェックしましょう。
- どの程度の改装が必要か
- 購入すべき機器類は何か
改装費用については内装会社に見積もりを出してもらう必要があります。懇意にしている業者の都合が合えば、内覧に同行してもらい、費用の概算だけでも早めにもらっておきます。
内装会社の選び方は別の記事で詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。
(参考記事)予算内で理想の店作り!失敗しない内装会社の探し方・選び方・依頼の仕方
内装会社からもらった見積もり内容をもとに、具体的に検討を進めます。
初期投資は開業予算に収まりますか?
月々のコストは事業計画の見込みをオーバーしていないでしょうか?
事業を成立させることが見込みが持てる物件であれば、そのまま契約しましょう。減額など条件変更しないと商売が成り立たない場合は、希望の入居条件を提示して貸主の判断をあおぎます。
ステップ3「スピーディーに決断・契約する」
商売が成り立つ物件が見つかったら、スピーディーに動いてください。良い物件であればあるほどスピード勝負です。
居抜き物件サイト「店舗そのままオークション」であつかう物件の50%は、募集開始~2ヶ月以内に契約が完了します。
だからこそ出店検討では常に新着物件にアンテナを張り、「これだ」という物件が出てきたら内覧と申し込みはスピーディーに進めなければいけません。
「内覧→(内装現調)→予算確定→申し込み」
たとえ同じ物件で競合が現れても、準備周到でスピーディーにやり取りできる検討者が優先されるのは当然ですよね。
申し込みに必要な、連帯保証人の準備や契約に必要な資金の手当てなど、具体的な物件探しの前にしっかり準備してきたことが大きな差になります。
あーでもないこーでもないとダラダラと検討したり、判断に迷ってしまっていたら、良い物件ほどライバルにすぐに取られてしまいます。あなたが気になる店舗物件は、他の出店希望者も気になる物件なのです。
この段階まで来て、スピーディに決断できない人は、おそらくステップ1・2を正しく踏めていない方。独立開業でスピーディに決断できないと、いつまでも出店できないという事態に…。
そもそも何店舗も経営している外食企業にくらべ、初めて飲食店開業をする人に貸すことは、家主や不動産業者からすれば「リスクが高い契約になりやすい」と言えます。
にも関わらず、「根拠のない交渉をしてくる」「契約するのかハッキリしない」「判断が遅い」となったら、他の検討者で進めたくなるのも当然のこと。
その点を踏まえて、物件を決めるタイミングでは必ず、スピーディに正しい判断ができる状態にしておきましょう。
「松の葉」が希望通りの物件を契約できた流れ
では、セミナーを受講した松本さんがどのように物件を探して契約できたのかを順を追って見ていきましょう。
「絶対に」妥協できない条件はなにか
日吉・元住吉エリアを狙いとした物件探索の期限を約半年に設定。しかし、半年経っても候補物件が見つかりません。
そこで東急東横線・東急目黒線沿線で自宅から30~40分で通える範囲まで検討エリアを拡大。その結果、具体的に3件の候補物件がでてきました。
その内の1件は物件契約直前まで検討を進めたものの、インフラ(ガス容量)や造作価格の問題で、諦めざるをえませんでした。
以前に比べると、物件探しに「手応え」を感じるようになっていた松本さん。
その一方で、”あと1歩”というところで決めきれないジレンマを抱え、悶々とした日々を過ごします。
開業できないかもしれない……
なかなか物件が見つからない焦りや苛立ちから、心が折れそうになったことも。
そんな松本さんを救ったのは、前職の職場の先輩が放った一言でした。 結局、あなたにとって、”絶対に妥協できない点”っていうのは、地元(日吉・元住吉エリア)で開業するってことなんじゃないの?
そう言われて、ハッとしました。
元々、開業エリアを日吉・元住吉エリアに絞って探していたのは、「単に地元だから」という理由ではありません。
一緒に働いてくれる家族や仲間が無理なく通え、自分が考えるお店のコンセプト(客層、客単価、競合状況など)に適合していたから・・・。
物件探しの視点がガラリと変わりました。
私にとって(お店のコンセプトを成立させる上で)絶対に妥協してはいけない点は、出店場所を日吉・元住吉にすることだった。
妥協できる点を踏まえ、物件を再検討
出店エリアを妥協しないと決めたら、それ以外の条件を妥協するしかない。
そう考えると一件、思い当たる物件がありました。
それは半年ほど前に知った中華料理店の居抜き物件。そのときは内覧すらせずにスルーしていた物件でした。
希望の坪数よりやや広い分、家賃も少し高い。中華料理の居抜きでは雰囲気が合わないし、閉店して2年も経っていて、そのまま使えるものが少なさそう。
ただ立地条件だけは譲れないとするなら場所は合っているし、検討してみてもいい物件かもしれない
試算してみると開業予算におさまる物件だった
あらためて内覧してみると、お店の中は物置き同然。閉店から2年も経った店内は、とてもそのまま再利用できるように思えません。
しかし、マイナスの要素だけではありませんでした。
- 前テナントは20年におよぶ営業実績があった
- 飲食店に入ってもらいたい、と家主が協力的
- ガスや水道、電気の容量などの問題はクリア
前向きに検討できる材料も多く見つけることができました。
ボロボロ状態の居抜き店舗では、内装は一度壊してから作り直し、設備は全部買い替えになってもおかしくありません。そうなると費用面での懸念が残ります。 迷っているのであれば、内装業者さんに見てもらって、金銭面をはっきりさせて検討しては?
内覧をサポートしていたM&Aオークションの担当者からこんなアドバイスが。
内装会社に依頼し、現地調査&内装工事の見積もりをとってもらうことにしました。協力してくれたのは飲食店の施工を多く手がける経験豊富な内装業者。
松本さんは、この内装業者から”意外な”提案を受けました。 お金をかければ良いというモンじゃない。このエアコンだって、分解洗浄すればまだしばらく使えますよ。
家具だって僕らに頼むより、自分で買ってきたほうが安く済むんじゃないかな。
残っていて活かせる部分をうまく使えば、コストダウンする方法はたくさんある。
何でもピカピカの新品がイイっていう気持ちはわかるけど、お金をかけたら、投資回収にも時間がかかるし、自分が大変になるよ。
当たり前の話ですが内装業者にとっては、工事金額が高くなれば売上も増え、利益も増えます。
ビジネスマンとしての長年の経験から「内装業者は、なにかしら理由を付けて値段を釣り上げてくるのが普通」で、積極的にコストダウンを勧めてくるなど思ってもみませんでした。
確かに見積もりのあとに「追加発注が必要になった」と値段を釣り上げてくる業者が多いのも事実。業者選定には注意が必要なこともあります。
内装工事の見積もりの見方・チェック方法などについては、他記事で説明しています。
(参考記事)予算内で理想の店作り!失敗しない内装会社の探し方・選び方・依頼の仕方
内装会社による「なるべくお金を掛けない方が良い」という提案は、松本さんにとって全く予想外。
開業者に寄り添った内装業者からの親身な提案が、松本さんにとって一筋の希望となりました。
(この業者さんは信頼できそうだ。)
(ひょっとしたら、この物件で開業できるかも知れない。)
そこで「もしこの物件でやるとすれば・・」という前提で、改めて、事業計画(投資計画や収支計画)を練り直してみました。
すると、投資金額も開業予算内に収まり、損益分岐点も半年から1年で超える見通しが立つことが判明。
ついに、物件契約に踏み切ることにしました。
これまでの物件探しを振り返ると、『正しい条件を定める』ことさえできれば、あっという間に契約まで進んでいきました。
視点を変えただけで、こんなにもスムーズに進むのかと拍子抜けしました笑
多くの物件情報に触れた経験(30件の物件視察、15件の内覧、3件の本格検討)と1年半にわたる試行錯誤がなければ、このスムーズな決断はできなかったはずです。
この1年半の月日が松本さんの創業の想いや事業コンセプトを、さらに1つの上のステージへと導いたのは間違いありません。
物件が契約が済み、引き渡しを受けたのは2017年10月1日。あとはすべてスムーズに開業まで進むと思いきや、大変なトラブルが待ち構えていたのです。
古い居抜き物件で起きた、特殊な事情。工事が終わらない…
一年半ごしに念願の物件契約を果たした松本さんでしたが、しかし開業の苦労はまだまだ続きます。
次に松本さんの頭を悩ませたのは内装工事。スケジュール通りに工事が進まなかったのです。
というのも、松本さんが契約した物件は、かなり古くに建てられた建物。もともと賃貸で貸し出す予定がなかったために、家主さんが現状の正確な図面を持っていませんでした。
そのため、目に見えない部分の基礎設備の詳細が分かりません。床や天井、壁に隠れている電気配線や水道やガス管が、どこをどのように通っているのかが把握できなかったのです。
床や天井、壁をはがしてみるまでわからない、これは居抜き物件の怖さです。工事も手探りで進めていくしかないため、プランの変更を余儀なくされることも。
松本さんも追加調査やプラン変更を行っているうちに、予定が押し気味に。ついにはいつ工事が終わるか分からない状態になってしまいました。
スケルトン物件では通常ありえないことですが、居抜き物件の場合は、図面がなかったり「フタを開けてみて想定外のことが起きた」ということも多々あります。
当社のように居抜きを多数取り扱っている専門家からすれば「居抜き店舗で起こりうること」と冷静に対処ができますが、初めて開業する場合、なかなかそう簡単に割り切れるものではありません。
前向きに、冷静に、自分のできることを
日々遅れていく工事に、普通であれば不安と苛立ちが募っていってしまう方が多いのですが、松本さんは違いました。
そういう物件を借りたのだから、イチイチ目くじらを立てていたら、こちらの身が持たない。
この間に仕入れ先を探したり、他のお店を研究したり、営業も兼ねてお世話になった方々へのご挨拶回りをしたり、開業に向けて進められることもある。
居抜きにトラブルは付き物。初めての開業は、一生に一度しか経験できないことだから、逆にトラブルを楽しもう!
そう割り切って、工事が進まない間も有効活用して開業準備を進めていきました。
1カ月遅れでオープンしたものの、経営は順調
当初は12月に開業する予定でしたが、内装工事の遅れによりオープン日は延期に。
中途半端な状態でスタートするより、しっかり準備を整えてオープンしたい。
オープン日を1カ月延ばし、1月に変更しました。
しかし、工事の進捗は思わしくありません。暮れの近づくころになっても、いくつかの工事が残っていました。
このままではいつまで経ってもオープンできない
オープンを先延ばしにするのはやめよう
覚悟を決め、1月11日(木)にランチ営業のみでオープンすることに。これなら万が一、工事個所が残っても、ランチ営業が終ったあとに残りの作業を進めることができます。
また、メニュー数を絞りやすいランチはオペレーションのトレーニングには最適。現場の作業に慣らしながら、ディナーの営業開始に向けた準備を進めていくことができました。
オペレーションが落ち着いてきた3月からディナー営業もスタートし、「飯場松の葉」は売上・客数ともに右肩上がりで毎月成長中です。
松本さんから物件を探している方へのアドバイス
皮肉なことに、本気で物件探しをすればするほど、(すぐに物件は見つからないので)加速度的に精神的に追い込まれていきます。
どうせ今日の物件も期待ハズレに違いない」「もう一生、希望の物件なんて見つからないかもしれない」とモチベーションがどんどん落ち込むなかで、それでも物件を見に行かねばならない辛さ…
物件探しを始めて1年が過ぎるころ、わたしは本当にノイローゼになりそうでした。
それでも・・・物件を見に行こう!
多くの物件を見ることは、相場観を養うことにつながりますし、なによりも自分自身の希望物件に対する考えを整理することができます。
今、「ムダだ、無意味だ」と思っている物件の見学も、いつの日にか必ず役に立ちます。なぜならムダな物件をたくさん見た経験こそが、物件を決める時の決め手になるからです。
「見つかる」と「見つける」は結果は同じでも、プロセスが全くちがうことを理解しておいたほうがいいかもしれません。
店舗物件は偶然「見つかる」ことはありません。物件は自分が意思をもって「見つける」ものです。・・・この二つの意味の違いが分かるころ、あなたも物件を決めることができるはずです。
さぁ、明日も物件を「見つけ」に行こう!
視点を変えただけで、スムーズに進む
松本さんが希望エリアで出店できたのは、運や努力だけではありません。もちろんコネでもありません。
- たまたま良い物件が見つかった
- 不動産屋との交渉が上手になった
- 知り合いから出回っていない物件を紹介してもらった
どれも違いますよね。物件探しにおける3つのステップをひとつずつ進めて、「どういった物件なら契約すべきか」を突き詰めていった結果なのです。
- ステップ1「事業計画から逆算して条件を洗い出す」
- ステップ2「相場を知った上で物件を探す」
- ステップ3「スピーディーに決断・契約する」
正しい方法・正しい視点で物件を探すと、良い物件と出会える確率がグッと高まります。
松本さんにもご参加いただいたセミナーは毎月開催。この他にも「業者の付き合い方」「物件の条件交渉」など物件探しのノウハウや実例をお伝えしています。
もし物件探しに課題を感じているのであれば、お越しください。状況を打破するヒントを得られる場になるはずです。
物件探しの極意
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1975年生まれ。東京都出身。
東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど、多岐に渡る豊富な経験を持つ。
実務経験15年、1000店舗以上の支援実績を誇る立地戦略・物件開発のスペシャリスト。長年の現場経験に基づいた的確なアドバイスは、個人からチェーン企業に至るまで、多くのクライアントから絶大な信頼を集めている。