こんにちは!首都圏で年間100店舗ほど飲食店開業をサポートしております、株式会社M&Aオークション開業コンサルタントの金子と申します。
今回のテーマは、
異業種からの脱サラ開業で、最も早い成功への近道はなにか?
について、実際の開業オーナー事例を元にお話ししたいと思います。
飲食店開業のサポートでは飲食店の創業パターンを大きく2つに分けて考えています。
①長年の修行した後に開業
②異業種からの転身で開業
私どもへの相談される方の比率は、およそ半分ずつといったところ。
飲食業界の経験があれば開業の成功率は高い?
脱サラなどの未経験者は失敗しやすい?
実はそう単純でもないのが、店舗経営の面白いところ。
どちらの場合でも、オープンしてから長きに渡って事業を継続する経営者もいれば、そうでない場合もあり、一概にどちらが好ましいとは言えません。
ただし、10〜20年の経験を積んだ「飲食のプロ」に対し、異業種の飲食業界経験のない脱サラオーナーが「料理の腕前・経験」の点でハンデを背負っていることは事実。
フランチャイズを活用するという手段もありますが、今回はあくまで自前の業態での独立開業。
では「異業種からの未経験脱サラオーナー」の飲食店開業で、業界のプロに勝つためにどうすべきか。
戦略を立てて「未経験者なりの準備」をする必要があります。
この「事前準備」が異業種での起業において、成否を分けます。
IT業界16年のサラリーマンからうどん居酒屋店主へ転身した、『こしたんたん』茂木オーナー。
まさに異業種参入のお手本とも言える、”王道”のやり方で異業種参入を成功させました。
初月から売上目標を達成し、その後の経営も順調な「こしたんたん」。
どのように事前の開業準備をしてきたのでしょうか?
王道であるにも関わらず見落とされがちな内容とは?
ではさっそく、脱サラ開業者が行うべき事前準備・開業術について紐解いていきましょう!
IT業界16年のサラリーマンからうどん居酒屋店主へ
本日はよろしくお願いします。元々飲食業界ではなく、ずっとIT業界で働いてこられたんでしたっけ?
24歳から39歳まで16年間、 IT関連の仕事をしていました。エンジニアから営業までこなし、仕事は充実していたように思います。
ただ常に心の中に何か、しっくりこない感覚はありましたね 。年を重ねるうちに本当に自分のやりたいこと、すなわち自分でうどん店を経営したいという気持ちが強くなっていったんです。
なぜウェブの世界から外食産業、しかもその中でうどん業態だったのでしょうか。
実家は群馬県なのですが、4代続く製麺業なんです。うどん作りに情熱を傾ける父の背中を見て育ったため、自然とそういった(開業したい)気持ちが芽生えていたんだと思います。
なるほど。お父様の影響があったんですね。 畑違いの飲食業界に飛び込むために、うどん店に勤務して、修行された、と。
飲食店独特の「段取り」は、現場でしか経験できないものだった
茂木さんが開業してみて、事前にお店での修行は必要な経験だったと思いますか?
やっておいて良かったと思います。 やはり、飲食店の現場でしか分からないことがあるので。
現場でしかわからないこと、とは例えばどういった部分ですか?
そうですね、例えば”段取り”です。 未経験のアルバイトさんを雇うと、注文された商品の提供より、片付けを先にしがちなんです。 片付けが済んでいないと新しく入ってきたお客様をお待たせしてしまうので、心配して気を回してくれているんです。
ただそれは、お客様目線に立ちきれていません。 注文してからお客様はずっと待ってくださってる状態ですし、より良い状態(熱いものは熱く)で召し上がっていただきだいじゃないですか。
お客様のためには 「商品優先」が鉄則なんです。
出来上がっている商品があれば、 先に出してとお願いしています。 こういったお客様目線は、働いてみないと分からない部分だと思うんですよ。
なるほど、確かにそうかもしれませんね。
もし修行していなかったらできないんじゃないかと思うのは、その「段取り」でしょうか。飲食店で”段取りは命”なんです。
よくあるケースだと、4名グループのお客様が来てバラバラの注文が入ったとして。「ひとつずつ確実に作っていこう」と思ってしまいませんか?
今までの仕事の仕方だったらそれが正しかったんですが、飲食店は違うんですよね。
一緒に来たお客様が、同時に食べて頂けるようにしたいじゃないですか。提供タイミングをそろえるために、どのタイミングで何をするのかという段取りが重要なんです。
あとは1名で来店された方への提供スピードでしょうか。複数で来られて喋りながら待っているお客様より、1名様は待っている時間が長く感じるものなんですよね。おひとり来店のお客様への提供時間には、特に気を配ります。
こういった対応は現場以外では経験できなかったことだと思います。
うどん店で5年修行…体力的には厳しかった
ところで、うどん店での修行はどれぐらいの期間されていたんですか?
修行自体は5年間ですね。1店舗目で1年、2店舗目で4年働きました。
修行先のお店を変えたんですね。
そうなんですよ。1店舗目は、厨房には入れてもらえず、ひたすらホール仕事だけだったので、ホールの仕事を体得できた時点で、お店を移りました。やはり調理技術も磨きたかったんです。
飲食経験が無かったので、修行先も『飲食未経験OK』の店から探さすべきでしたね。1店舗目で厨房に入れなかったのも、仕方ない部分もあったかと思います。
なるほど。修行先を選ぶなら、学びたいことが学べる店を選ぶ必要がありますね。実際、飲食店の現場で働いてみてどうでした?
勝手が違うことばかりで戸惑うことも多かったですね。ただ飲食店が実践しているノウハウを学べたのは良かったです。
かなり忙しいお店で、ランチだけで500食ほど(注文が)出るんですが。4名グループのお客様へ同時に提供するための段取りや、お店の回転率を下げないための工夫など、店の内側からしか見えない部分が見えました。
体力的には厳しい部分もありましたけど(笑)
どのぐらいの頻度でシフトに入っていました?
サラリーマンの時は夜だけ週3回、会社を辞めてからは毎日のように入っていました。
座りっぱなしのITのお仕事との差は、かなり大きかったんじゃないですか?
いや、実はサラリーマン時代も立ち仕事だったんですよ。サーバールームなどで作業することも多くて。
うどん店は厨房の温度が高く、容赦なく体力を奪っていきます。麺を茹でるために、茹で釜を常にグツグツにしとかないといけないので(笑)
…やはり夏場は過酷ですね!お話を聞くとわかるんですけど、やっぱり想定外のことも出てきますよね。
自分の甘さに気づいて、昼夜問わず働くことに
確かうどん店以外でも、現場経験を積まれていましたよね?
そうですね。老人ホームと居酒屋の調理スタッフとして働いていました。
実は金子さんに会う前に、店舗物件を扱う別の会社さんへ相談へ行っているんですよ。自己資金100万円で500万円ぐらい融資で引っ張ったら、なんとか開業できるんじゃないかと思って。
そちらの創業者の方に会う機会があったんですが、厳しい言葉とアドバイスをいただきました。
「自己資金100万円で飲食店を開業しようとするなんて問題外だ。飲食をなめるな!」
「佐川急便でもクロネコヤマトでも良いから、最低300万円は貯めろ!」
そんなことがあったんですね…でもわたしも自己資金が足りない方からご相談をいただいたら『もう少し働いてお金貯めない?』とは言っちゃいます(笑)
いや、重要ですよね。そこまで言っていただいて、自分の甘さに気づいて、昼夜問わず働くことにしました。『1年で100万円貯めよう』と決心したんです。
とはいえ2つ(老人ホームと居酒屋)を掛け持ちするのは大変だったんじゃないですか?
身体はボロボロになりましたね(笑)朝5時~15時は週6で老人ホーム、17時~0時は週3で居酒屋で勤務というスケジュールでしたから。
いや〜。1年間、よくやりきりましたね!
やっぱり、夢のためだからできたんです。
あと金融機関へのアピールもありました。
そうですね、コツコツ計画的に貯めた自己資金ほど強いアピールはありませんよ。
少しでも金融機関に本気が伝われば、と思いました。
結局自己資金は600万円まで貯めて、創業融資の申請を行いました。働いたお金だけでなく、自宅を売却したお金もあわせて開業資金にあてて。
そうでしたね。
金子さんにサポートいただいたかいもあって、融資では1000万円借りることができました。
いやいや、何より茂木さんの頑張りがあってこそです!
販促なしでサイレントオープン。口コミでゆっくり集客。
「調理経験」「自己資金の準備」が整って、開業にぐっと近づきました。物件が出てきたタイミングも良かったですよね。
そうですね。ちょうど金子さんにサポートいただいている時で。物件情報が出てきて、スグにご連絡いただきましたよね。
はい。物件情報は毎日チェックして、相談いただいている方の希望に合うものがないか探しています。この大倉山の物件を見つけた時は「このエリアの物件は茂木さんの検討範囲!広さもいい!連絡だ!」と即連絡しました。
おかげさまで、ここで出店できました。駅から徒歩4分とほど近く、近くに港北区役所があり人通りが多いことが決め手でしたね。
オープン時には、初期販促はされたんですか?
いいえ。サイレントオープンで何も販促はせずにオープンしました。
大勢のお客様にいきなりお越しいただいたら、お待たせしてしまうんじゃないか、と懸念があったんです。悪い評判が立つよりは、丁寧に立ち上げを行ってゆっくり口コミでお客様を増やしたいと思って、サイレントオープンにしました。
もし1ヶ月後に売上目標に届かなければ、広告も考えていましたが、幸い目標に届いたので販促はしませんでしたね。
早めに軌道にのって何よりです!
口コミが1番大きかったです。と言っても、インターネットの口コミよりリアルの口コミの確実性が高いと感じました。お客様の年齢層もあるかと思いますが。
最初に来てくれた女性が、お友達を連れてきて。紹介されてきた女性が、今度は孫と来てくれて。口コミの紹介が連鎖するんです。
お客様がお客様が呼ぶというのは、一番良い状態ですね。
業績好調の要因のひとつは夜営業
群馬出身のオーナーが揃えた群馬の地酒 営業を開始してみて、『これは事前の計画とは違ったな』という部分はありますか?
「昼稼いで夜のんびり」というスタイルを計画していたんですが、実際は夜が忙しいですね。売上目標を早々に達成できたのも、お酒の注文が出ていることが大きいです。
順調で何よりです。何がお客様の心を掴んだと思いますか?
メニューで言うと、ほろよいセットが人気です。生ビールとおつまみ3点、うどん(ざる・かけのどちらか)をセットで1600円で提供しています。
今いただいているコレですね(笑)確かに、かなりお得感があります!
ありがとうございます。常連になってくださるきっかけの1つになるように、ココでしか食べられないおつまみを提供できるよう工夫を凝らしています。
常連になってくださる要因って他になにかありますか?
あとはギャップ、ですかね。ウチは外から中が見えないので、入りづらさや不安があると思うんです。一度食べて満足いただけると、入店時の不安とのギャップがより良く作用していると思います。
中が見えにくいお店は、高級感があり敷居を少し高くなりがち。意外なリーズナブルさが、良いギャップを産んでいる。
ごま油100%のこだわりがお客様の心を掴む
ごま油100%で揚げた天ぷらは、香りとコクが段違い
ほろよいセット以外の人気メニューって何ですか?
1番人気は、天ぷら・天ざるうどんなんですよ。
ウチの天ぷらは100%ごま油で揚げているんです。サラダ油や天ぷら油よりも、ごま油は原価が高いので他のお店からは『バカじゃないの?』って言われるんですが(笑)
油にこだわっていらっしゃるんですね。
はい。香りやコクが全然違いますから。うどん屋はごま油は1/3程度に抑えている店が多いんじゃないでしょうか。
たぬきうどんのあげ玉も同様にごま油100%で揚げているんです。ウチのあげ玉を気に入って、毎回たぬきうどんを召し上がられるお客様もいらっしゃるくらい。
茂木さんのこだわりがお客様にしっかり伝わっている証拠ですね。本日はありがとうございました、これからも応援しています!
ランチは多くのお客様で賑わっていましたが、慌てることなくお客様にご対応されており、現場での修業経験が活きているのだと感じさせられました。
脱サラ開業の方にとって一定期間の現場勤務は、開業資金を貯めるだけでなく、飲食店における段取りなど現場ならではの体験もできる”一石二鳥”のやり方と言えます。
スムーズなオペレーションのためにも、飲食店経営で思い描いていたイメージとのギャップを埋めるためにも、数ヶ月から半年の短期間でも現場経験を積むことは強くおすすめします。
■店名:「こしたんたん」
■住所:神奈川県横浜市港北区大倉山1-28-11
■TEL:045-717-7235
■営業時間:11:30~14:00 17:30~22:00
■定休日:日曜日、月に一度の月曜日
デイナーの時間帯は、自慢の日本酒をカウンター越しにお勧めしながら、お客様と地元の群馬ネタで盛り上がっているそう。「コシのある創作うどん」や「レアものの群馬の日本酒」を飲みたい時は超お勧めのお店です!
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東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。
また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど豊富な経験を持つ。
その後、株式会社M&Aオークションの立ち上げに携わり現在に至る。
「店舗そのままオークション」の創立以来、年間100店舗以上の開業に携わり、支援した数は500店舗を超える。
現場思考のサポートに定評があり、顧客からの信頼も厚い。