飲食店を開業して、経営が軌道に乗ったら『どんどんお店を増やしたい』とお考えのオーナーもいらっしゃるかと思います。
直営店を増やしていくのか、社員独立で暖簾分け店を増やすのか、もしくはフランチャイズ化を狙っていくのか…
そもそも1店舗オープンした後に、増店していく飲食店はどれほどいらっしゃるのでしょうか?
私どもの調査結果をお伝えします。
多店舗展開を実現されている店舗オーナーは、わずか3%
※初出店から3年以内における増店率(株式会社M&Aオークション調べ)
そもそも1店舗目がまだ上手くいっていないケースもありますが、しっかり収益を上げているのに次の出店ができない「多店舗展開の壁」に悩まされているオーナー様も多いのです。
そこで今回は、株式会社Root代表の猿田氏にインタビュー。元々グローバルダイニングで活躍していた猿田社長は1号店を白金で出店し、その後は代々木上原・学芸大学・大手町とわずか5年で4店舗を出店。
ソムリエの資格を活かし、国産ワインに合う地元食材をリーズナブルに楽しめる「一次産業応援型ビストロ」がコンセプト。それぞれが人気店に成長しています。
4店舗体制に至るまでの経緯や苦労、多店舗展開のメリット・デメリットなど、「多店舗展開の壁」を乗り越えるための秘訣をお伺いしました。
400店以上の開業サポートを行ってきた、わたくし大森も勉強になるお話しばかり。候補物件・優秀なスタッフ・資金をどう準備したのか、ご参考ください。
食の『四方よし』を掲げる、株式会社Root 代表の猿田伸幸氏
■経営者インタビュー 株式会社Root 代表 猿田伸幸氏
・猿田社長プロフィール
都内の著名レストランで支配人を務め、外食業界で十数年のキャリアを積む。2012年9月に恵比寿駅と広尾駅の間、高級住宅地として有名な白金エリアに「Smoke & Vegetable Bistro SARU 白金」をオープン。翌年10月には早くも2店舗目となる「Fresh Seafood Bistro SARU 代々木上原店」をオープンし、2015年2月に3店舗目、2017年2月に4店舗目を出店。食の『四方よし』を形にする会社を作るというミッションの下、信頼できるスタッフと現在5店舗目の出店に向けて鋭意物件探索中。 |
・株式会社Rootのミッション:食の『四方よし』とは?
|
その四方に利を産み出すことを意味しています。
2店舗目の出店理由は「スタッフが多すぎた」から!?
猿田さん、ご無沙汰しています!本日はよろしくお願いします。
お久しぶりです。こちらこそ、よろしくお願いします。
早速ですが、2012年に1店舗目を出店してから、2013年に2店舗目、2015年に3店舗目、2017年に4店舗目と順調に増店されていますね。
これは当初の狙い通りでしょうか?
いえいえ。全然そんなことありません。1店舗目を出してしばらくは死ぬか生きるかというレベルで…
とにかく1店舗を軌道にのせることに必死でしたから、2店舗目のことを考える余裕なんてありませんでした。
なるほど。でも実際には2店舗目を出されたワケですが、どんな経緯で2店舗を出店することになったのでしょうか?
人が多すぎたんです(笑)
独立前は比較的大きい外食チェーンに務めていましたので、その当時の仲間や後輩が、嬉しいことに一緒に働きたいと言ってくれて。
ここ白金店は社員4名+アルバイト数名がいれば回る規模なのですが、一緒に働きたいというスタッフをウエルカム姿勢で受け入れてたら、いつの間にか社員クラスが7名になってしまって。。
キャパオーバーなので2店舗目を出すしかない、、と(笑)3店舗目からはある程度、計画的に出店していますけどね。
SARU白金店:席数30席、ランチ/ディナー営業
それだけ慕ってくる人が多いというのは、猿田社長の人徳ですね。
どうなんでしょうね。。。そうだと良いのですが(照)
1店舗目は物件、2店舗目は資金…それぞれ苦労が
1店舗目、白金店の開業時にはどのような苦労がありましたか?
物件探しにはだいぶ苦労しましたね。なかなかコレだ!と思える物件に巡り合えずに、最終的に今の場所に決まるまで、1年近くかかりました。
客単価が5000円~6000円の少しアッパー系のお店ですから、出店できるエリアも少し限られていますよね
そうですね。この物件以外にも、自由が丘や奥沢など高級住宅地を中心に探しました。
立地だけでなく、解放感のあるお店にできるか、間口などもチェックしていました。『妥協したくない』という思いもあり、1年近く物件探しに時間を掛けました。
最終的にこちらの白金に出店して、いかがでした?
オープン後は前の職場から近かったこともあって、その時のお客様や仲間達がお店に来てくださったり、口コミを広げてくださったりして、スムーズに立ち上げることができました。
本当にありがたいことです。今にして思えば、1店舗目がこの場所で良かった!と思いますね。
2店舗目の開業で、1店舗目と異なる取り組みなどありましたか?
2店舗目の際に、初めて銀行に融資をお願いしました。比較的スムーズに通ったように思います。
1店舗目が好調だったのと、金融機関からの借入がなかったのが大きいですね。
集客は最初から比較的順調でした。立地と店舗のコンセプトがばっちりハマりました。
Fresh Seafood Bistro SARU 代々木上原店:こだわり魚介の味をランクアップ!船上を思わせる雰囲気の内装
では、2店舗目の開業で1番苦労したことは何でしょうか?
これまでにプールしていた自己資金をかなり減少させてしまったんです。2店舗目の経営が軌道に乗るまでは、資金繰り的に神経がすり減る日々でした。
スケルトンからの出店だったので、けっこう投資は掛かりましたね。
なるほど。 3店舗目の出店はいかがでしょう?
立ち上げにかなり苦労しました。3店舗目は「山」「肉」をテーマにしたのですが、近くの人気店と競合しまして。
物件契約前の調査で気が付いて、ちょっと迷ったんですが思い切って出店したんです。案の定、立ち上げは大変でしたね。
特別な販促はしませんが、来店してくださったお客様には100%満足していただけるよう料理・サービスの品質向上を徹底しました。少しずつリピーターも増え、口コミでお客様は増えましたが、立ち上げに時間がかかりました。
1・2店舗目をスムーズに立ち上げられたのは、そのエリアでの「オンリーワン」のポジションが取れたのが勝因だったように思います。
いやぁ、これは良い勉強になりました。
4店舗目はこれまでは大きく異なる商圏(オフィス立地)に出店されていますが、どういったきっかけだったのでしょうか?
デベロッパーさんからお誘いいただきました。オフィス立地はあまり考えていなかったんですが、せっかくいただいたお話ですし、中食分野の展開を考えていたのでそのトライアルができるかと思って。
ケータリングにも取り組みはじめたんですね。
SARU to TABLEというサービスです。SARUの原点の味をお店の外でも楽しんでいいただこうという考えのもと、スタートしました。
今はエリアを限定して提供しています(港区・渋谷区・世田谷区・目黒区・大田区・品川区)。ご友人とのパーティーや、来客時のおもてなしとしてお喜びいただいています。
4店舗目の立ち上げは順調ですか?
今はまだ立ち上げ過程ですね。オフィス立地は土日がほとんど(売上が)取れないので、ビジネスのバランスを取るのが難しいと感じています。
赤字にはならないですが、儲けという意味ではあまりウマみがない状態です。日々勉強、日々試行錯誤しながら、改善に取り組んでいる真っ最中です。
出店はコンセプトありきで行う
SARUは、4店舗とも少しずつコンセプトが異なりますよね。
立地に合わせてコンセプトを作っていらっしゃるのでしょうか?それともコンセプトに合わせて立地を選定していらっしゃるのでしょうか?
うちの場合は、まずコンセプトを決めます。原点は『私達が出会って来た素敵な生産者さまの美味しい素材を私達が更に美味しく楽しんで頂けるよう調理する』ということ。
生産者さまの素材と、その魅力を最大限引き出すスタッフの存在からコンセプトが決まります。
コンセプトを決めてから物件を探し、出てきた物件とコンセプトを照らし合わせて、イケルかどうかを判断する、という感じです。
そのため出店は、「スタッフ・コンセプトありき」ですね。
多店舗展開のメリット・デメリット
猿田さんの考える「多店舗展開のメリット」を教えてください。
オーナー業に専念できることでしょうか。
自分が現場に入らなくなった分、将来のことを落ち着いて考えることができますし、優秀なスタッフや優良な取引先が増えてきています。事業展開の可能性が広がり、ビジョンが描きやすくなったことは大きなメリットですね。
また、複数店舗で仕入れをしていますので、食材原価の面でもスケールメリットが出ています。
逆に「多店舗展開のデメリット」はありますか?
人が多くなるので、やはり人材関連の悩みは以前よりも増えますね。
個性を大事にするがゆえに、その個性がぶつかりあったりすることもあります。人が増えてくれば当然といえば当然のことですが…
全員を自分が見れるワケではないので、アルバイトスタッフの教育などは、ある程度店長に任せるしかないのですが、教育が得意な店長もいれば、苦手な店長もいたり。そういう面の苦労は増えますね。
スタッフ成長の環境を整えることが採用・育成のカギ
『Bistro SARU』では生産者をスタッフが訪問
多店舗展開する上で、信頼できるスタッフの確保・育成は不可欠と思います。株式会社Rootでは、どのように採用し、どのように育成されているのでしょうか?
スタッフが活き活きと働ける職場環境を作る、ということはかなり強く意識して取り組んでいます。これがうちに人が集まる理由だと思うんです。
一般の企業で当たり前の職場環境が、飲食業界では当たり前じゃないんです。「きちんと休みが取れる」「責任に応じて給与が増える」「福利厚生がきちんとしている」「教育システムができている」そういう当たり前の環境がきちんと揃っている外食企業って、まだまだ少ないように思います。
劣悪な環境で頑張って能力を磨いてきた優秀な人材が、うちのような小さい会社にも集まってくるんじゃないでしょうか。
環境を整備することが重要なんですね。
私の使命は、成長したいスタッフがどんどん成長できる環境を整えることだと思っています。
スタッフみんなで生産者を訪ねたり、ワイワイとBBQをやったり、アルバイトスタッフを含めた店舗改善会議や勉強会をやったり、売上の1%を自己啓発のために自由に使える権限を与えたり。さまざまなことに取り組んでいます。
スタッフの秘めた能力を開花させ、活躍できるフィールドを用意することで、スタッフがやりがいを持って働いている姿を見るのが何よりも嬉しいです。
成長したスタッフが次なるステージとして独立開業していくのは、むしろ大歓迎ですね。
逆に言えば、成長意欲のないスタッフはウチには必要ないですし、合わないと思います。
人材不足で悩んでいるオーナー様が多いので、株式会社Rootさんのこうした取り組みはとても参考になりそうですね。
どうせ働くなら、楽しく、やりがいを持って働きたいじゃないですか。自分なりにそれを追求してきた結果なので、参考になるかどうか分かりませんが(照)
多店舗展開を目指すなら監督としてのスキルを
最後に、これから多店舗展開を目指す方にアドバイスをお願いできますでしょうか?
自分がオペレーションに入って1店舗でしっかり儲ける才能(能力)と、複数店舗をマネジメントする才能(能力)はまったく別モノ。異なるスキルが必要です。
どちらかというと、僕は後者のマネジメントスキルの方が高いと思うんです。エースで4番というスタープレイヤーよりも、監督やコーチに向いているタイプですね。
現場はより得意なスタッフに任せ、自分はマネジメントに徹するようにしています。
1店舗を極限まで高めていくのではなく、多店舗展開を目指すなら監督としてのスキル・能力を磨くことをオススメしますね。
猿田さん、本日はお忙しいところ、インタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございます。今度はぜひゆっくり食べにいらしてくださいね!
もちろんです!
なぜほとんどの飲食店が、多店舗展開できないのか?
多くのオーナー様がなかなか2店舗目の出店が実現できず、悩み苦しんでいらっしゃるのは、そこに目に見えない大きな『2店舗目の壁』があるから、と言われています。
「2店舗目の壁」となる5つの要素
[1]収益
店長給与を支払ったうえで、事業として利益が残るレベルの収益があるかどうか。
[2]資金
1店舗目で金融機関から借り入れを行った場合、同じ金融機関から一定期間は追加融資を受けられません。業績・業歴・返済実績を積み重ねて、与信力を高めましょう。
[3]人材
現場の店舗運営を任せられる店長人材が必要です。
[4]物件
2店舗間のマネジメント負担を考え、近隣エリアの出店にこだわりすぎると出店範囲が狭まってしまい、物件開発難易度が高まるケースも。
また現場の店舗運営に時間がとられ、そもそも次の物件を探す時間がとれないという問題を抱える方もいらっしゃいます。
[5]覚悟
一時的に収益が減少するリスクや、融資を実行すると更なる借金を背負うことになります。覚悟をもってやり遂げられるかが鍵です。
2店舗目の出店が叶わないのは、この内のひとつ、もしくは複数の点で問題を抱えているから。
だからこそ、1店舗目の経営をしながら準備しておくべきことが2つあります。
【1】次店舗の出店に必要な利益を把握し、目標を立てる
ご自分で現場のオペレーションに入っているオーナー様が、とくに問題を抱えやすい部分です。
2店舗目を出店するには、どちらかのお店はスタッフ(店長)に任せなければいけません。
1店舗が黒字であるだけでは、2店舗目の出店を目指せる売上にはまだ届いていないかもしれません。ではどれくらいの売上があれば、現実的に次の出店を考えられるのでしょうか?
店長給与を支払っても、オーナーの生活が維持できるのは最低ライン。
2店舗目の出店を目指すのであれば、オーナー所得の中から月々の生活費はもちろん、次の出店費用を捻出しなければいけません。
「所得があればあるだけ使う」という状態であれば、改善が必要。
『あらかじめ決めた定額だけを必要な生活費として使い、それ以外の余剰金は貯めておく』
2店舗目を出店するオーナーは、このように出店準備を着々と進めている方が多いです。
まずは店長給与を経費化した場合をシミュレーションし、売上目標をたてましょう。
【2】店長人材を育てる
多店舗展開には店舗運営を任せられる店長人材が必要不可欠。
もしそのようなスタッフがいない場合、「なぜそのような人材が育たないか、原因を探る」ことが第1歩です。
スタッフが育たない主な要因をご紹介しますので、自店に当てはまるものがないかご確認ください。問題になりやすいのは、スキル面とマインド面の2点です。
【スキル】
- オーナー自らが店長業務の全てをおこない、他のスタッフが店長業務を経験できない
- 見込みのあるスタッフに、店長業務の一部をやらせてみるものの、不安や心配で任せきれない
【マインド】
- いつまでも店長業務を任せてもらえず、店長としての自覚や責任感が芽生えない
- 将来のビジョン(出世・昇給)が見えずモチベーションが上がらない・辞めてしまう
ではどうやって店長候補人材に、問題なくお店が回る状況を作るべきでしょうか。
まずは、思い切って任せる「先行人事」。
オーナー様の仕事は、計画(Plan) 運営(Do) 分析(Check) 改善(Action)を回すことではありません。
現場オペレーションのPDCAを回すのは、あくまで店長の仕事。それをマネジメントするのがオーナーの仕事です。
任せられる業務を1つずつ増やしていき、オーナー抜きでお店が回る状況をつくります。
過度な節税は融資審査でマイナスになる
節税の基本は「利益を抑える」こと。
経費を増やして決算書で黒字を少なめに見せ、税金を減らそうとする経営者は少なくありません。償却期間が短い4ドアの中古車を買ったり、保険で節税する、などが有名ですね。
黒字が圧縮された決算書では「黒字が少ない=経営状態がよくない」とみなされ、金融機関の融資審査に悪影響を及ぼすことがあります。
多店舗展開を考えている方にとって過度な節税は、融資が思うように受けられないリスクになりかねません。
決算処理を税理士に任せている場合は、早めに出店を考えていることを伝えましょう。
「なるべく税金は減らしたほうが良いだろう」と節税を重視してアドバイスを行う税理士は少なくありません。
今回の猿田社長のインタビューが、これから多店舗展開を目指すオーナー様の一助になれば幸いです。他にも、多店舗展開に役立つ情報を以下にまとめましたのでごらんください。
■株式会社SARUの店舗情報
|
人材採用のお役立ちツール(無料ダウンロード)
自社で採用したい人物像を明確にするためのツールです。人柄・スキル・経歴など、様々な視点で検討していきましょう。
無料セミナー「2店舗目の壁を突き破る5つのポイント」
多店舗展開を目指すオーナー様向けに、定期的に「2店舗目の壁を突き破る5つのポイント」というテーマで無料セミナーを開催しています。記事中にもあった5つのポイントをより具体的に掘り下げ、より多くの実例で解説します。
もしご興味のある方は、ぜひお気軽にご参加ください。
LINEで新着情報を配信中!
飲食店開業・経営に役立つ情報や、セミナーの特別無料ご招待を月2回ほどお届けします。
多店舗展開に関心ある方には、こんな記事も読まれています
- なぜ居酒屋経営者は、2店舗目にラーメン店を出店するのか?
- 飲食店の人材不足を解決!現場18年のプロが教える「採用とマネジメント」
- 『夫婦で飲食店開業』ぶっちゃけ体験談から学ぶ、夫婦経営のポイント【Bakuroccho・ワイン食堂 Chat Gatto】
1975年生まれ。東京都出身。
東証一部上場のコンサルティング会社にて、数百店舗の飲食店チェーンの立地診断・出店判断を担当。また、大手チェーンのM&A業務に関わるなど、多岐に渡る豊富な経験を持つ。
実務経験15年、1000店舗以上の支援実績を誇る立地戦略・物件開発のスペシャリスト。長年の現場経験に基づいた的確なアドバイスは、個人からチェーン企業に至るまで、多くのクライアントから絶大な信頼を集めている。