黒字カフェ閉店

意外と知られていませんが、黒字にもかかわらず閉店する飲食店は意外とあるもの。もちろん黒字店舗だからと言って、撤退コストがゼロになるわけでもありません。

 

この飲食店の撤退時にかかる閉店コスト。忘れられがちですが、飲食店は出店だけでなく閉店時にも費用がかかりますしかも原状回復工事や解約前の空家賃など、撤退するために何百万円か必要なことも珍しくないのです。

 

そこで閉店コストを抑える一番の方法として活用されている「居抜き店舗売却」。

居抜き店舗物件として売却できれば、撤退コストでマイナスになるどころか、造作設備が売れることによってプラスになることも。

 

これはわたしどもがお手伝いした実際の具体例ですが、喫茶店の居抜き店舗をカレー店に売却したケース。閉店コストがなくなり、喫茶店オーナーにとっては212万円の得になりました。

通常閉店 居抜き売却
解約前予告家賃 ▲28万円 0円
保証金償却 ▲14万円 ▲14万円
内装解体費用 ▲84万円 0円
造作売買代金 0円 150万円
▲126万円 86万円

買い手は『学生を集客できる立地』で出店を考えていたカレー店の独立開業者。150万円で喫茶店の物件を買い取り。

126万円の閉店費用が出ていくどころか、差し引き86万円のお金を残すことができました。

 

ただし、居抜き店舗の売却は進め方ひとつで、成約率・売却額に大きな差がつくのでご注意を。

 

今回は、損をしない飲食店の閉店方法として、「居抜き店舗売却の重要ポイント」について解説。

 

出店・閉店オーナーともにWin-Winで無事に成約に至った実際の取引を取り上げるので、より実践的な内容です。(※両オーナー様にご迷惑が掛かってはいけないので、実名・店名は伏せさせていただきます。)

黒字飲食店オーナーの、苦渋の決断

店舗オーナーからの着信に気づく大森

わたくし大森がFさんからお電話を頂いたのは、夏も近づく6月上旬。

Fさんは開業のお手伝いをさせていただいたお客様で、約5年前にJR中央線の某駅近くに「カフェダイニング」をオープンしました。

 

バリスタ男性

大森さん、お久しぶりです。お元気でしょうか?

大森大森

お蔭様で元気でやっていますよ。珍しいですね。今日はどうしました?

バリスタ男性

いや、実は折り入って相談がありまして・・・

お店は順調に黒字経営を続けているFさん。あまりにも意外な相談内容でした。

 

事業を撤退するかどうか迷っている』とのこと。

 

人材の問題などでなかなか事業拡大ができず、利益も当初に目標としていたレベルに到達しない状態が続いているそう。

 

Fさんは悩んでいたのです。

 

このまま経営を続けていくか?

いっそのこと事業を撤退し、別のキャリアプランを考えるか?

 

Fさんのご相談はわたしにとって晴天の霹靂。驚かずにはいられませんでした。

しばらくお会いしていなかったとはいえ、SNS上で元気に営業されている様子は拝見していましたし、共通の知り合いからもFさんが順調に経営されていることを伺っていたからです。

もともとFさんは異業種からの脱サラ開業者

脱サラで飲食店開業

開業前のFさんは不動産仲介の営業マン。

ご親族は飲食業界に身を置く方が多く、物心ついたころから「いつか自分で飲食店をやってみたい!」という強い想いを持っていました。

 

今から約5年前に一念発起し、脱サラで飲食店を独立開業されました。

「異業種からの脱サラ飲食店開業」は、最も失敗率が高いパターン。

 

当時(約6年前)、Fさんから初めて開業相談をいただいた時には「本当に大丈夫だろうか?」と心配になったことをよく覚えています。

 

脱サラ開業を目指す方の中には「飲食店は楽しそうだし、自分でもできそう!」と軽いノリで考えていらっしゃる方も多いのですが、Fさんは「よくいる脱サラ開業希望者」とは一線を画していました。

 

大学時代の4年間、大手チェーンの飲食店でアルバイトにほぼ毎日入り、飲食店の現場を経験。飲食店の厳しさ・大変さを実感。

また飲食店経営者の知り合いも多く、経営の難しさもよく理解していました。

 

Fさんの飲食店開業に掛ける熱意と、積み重ねてきた努力は準備段階から並々ならぬもの。

 

不動産の営業マンとして色々な場所を回りながら、競合店や立地環境を調査。何年もかけた調査結果をもとに、自店の経営戦略や販売戦略を入念に練っていたのです。

 

面談が終わるころには、「この人ならしっかりやっていけるだろう。」と確信。

駅近の店舗物件で出店

飲食店出店時の祝い花

相談をいただいてからすぐに、物件を紹介。

そのうち何件かは一緒に内覧し、検討もしましたが、なかなかピンとくる物件に巡り合うことができず…Fさんの物件探しは難航していました。

 

そして半年後、ようやく運命の物件を発見

 

物件を一緒に見に行った時には、ふたりで顔を見合わせて、「コレだ!」と同時に声を上げるほど、理想的な物件でした。

Fさんの業態コンセプトにピッタリと合致していたのです。

 

その物件は、造作価格(居抜き譲渡価格)はやや高額だったものの、家賃が相場より明らかに安く設定されていました。

 

この物件を逃したら次のチャンスはない!」と、その場ですぐに申し込みを行い、他の人に取られないようにすぐに手付金を支払いました。

 

その後、無事に入居審査を通過し、晴れて独立開業の夢を叶えるに至ったのです。

 

入念に準備を進めてきたFさんが出店場所に決めたのは、JR中央線のとあるターミナル駅。駅から近い2階のカフェバー居抜き物件でした。

黒字だったのになぜ!?店舗の撤退を決めた、7つの理由

閉店してシャッターをしめているお店

「3年以内に約半数のお店が潰れてしまう」とも言われる厳しい飲食業界。

Fさんは5年以上にわたって黒字経営を続けてきました。

 

競合ひしめくターミナルの駅前立地で営業し続けてきたことを考えると、経営者としての能力・資質、飲食経営に対する情熱・努力には、疑いの余地がありません。

 

「事業撤退」には驚きましたが、事情をお伺いすると納得のいく内容でした。Fさんが事業撤退に至った主な理由は次のようなもの。

 

(1)黒字ではあるがこれ以上売上は伸びず、事業拡大のメドが見えない。

 

(2)次の展開に向けて育ててきた優秀なスタッフが諸事情により辞職。

 

(3)ずっと店にいるため、世の中の動きや他ビジネスに関する視野が狭くなってしまっている。

 

(4)借入金の残高も少なくなり、一定の金額で居抜き売却できれば損失なしで撤退できる。

 

(5)5年間ガムシャラに経営してきたため、家族サービスができず、奥様やお子様に寂しい想いをさせている。

 

(6)税金の支払い等を考えると不動産営業マン時代より年収ダウン、家族に負担を掛けている。

 

(7)不動産営業マン時代の先輩から良い勤務条件・待遇で仕事の誘いを受けている。

 

おそらくFさんが独り身だったら、事業の撤退を考えることはなかったでしょう。ですが、家族を持つと「自分ひとりの人生」ではありません。

 

撤退の決断まで、深く悩んだことは想像に難くありません。

 

「ここまで頑張ってきたのだから、辞めるのはもったいない」という気持ちと、「このまま続けて、自分や家族のためになるだろうか?」という想いの狭間で揺れに揺れて、下した決断。

 

悩んだ末に辿り着いた結論が「事業撤退(居抜き売却)」。

Fさんにとっては、苦渋の決断であったと思います。

 

Fさんのお店は、わたしにとっても強い愛着がありました。

開業のお手伝いをさせていただいたのはもちろん、オープン後にプライベートでも利用させてもらっていました。

閉店となると、「残念」「寂しい」という気持ちがありました。

 

しかしイチ経営者として、イチ家庭人として、Fさんが悩みに悩み抜いて出した結論。

 

「適切なタイミングで事業撤退するのも正しい経営判断の1つ」と思い直し、居抜き取引のプロとして、「できる限りスムーズな撤退ができるように全力を尽くします」とお約束を致しました。

閉店を相談したい方へ

私どもは、オーナー様の事情や希望にあった最適のやり方でお手伝いして参ります。
小さなご質問やご要望でも遠慮なくお申し付け下さい。

まだ迷っている方、相談のみ希望の方もお気軽に。
「売却までの手順や用意しておくことは?」「家主への了解はどのタイミングでどう取るのが良いのか」など、相談にのっています。


売却のご相談・お問い合わせ

居抜き売却に向けた大きなハードル

店舗物件

居抜き店舗として売却へ向けて動き出した直後、大きな問題が浮上

実は、Fさんが開業して2年ほど経った頃から、物件の貸主(大家さん)から「ちょっと家賃を上げさせてもらえないか?」という話が出ていたのです。

 

経営状態として黒字ではあるものの、潤沢な利益が出ているワケではないため、なんとか家賃を据え置いてもらっていました。

 

通常の居抜き店舗売却の流れでは、まず最初にすべき貸主確認

引き継ぎ先を募集する前に、次テナントの契約条件を確認しておきます。

募集条件を固めておくことで、買主(次のテナント)が安心して検討できるからです。

 

契約条件があやふやなままだと、検討中に金額がころころ変わり、次のテナントの出店の算段がつきません。契約が成立せず現テナント(売主・譲渡主)も困ってしまいます。

 

しかし今回のケースに限っては、貸主確認を先に行うのは得策ではありませんでした。次テナントの賃料が大幅に上がってしまう可能性があるからです。

造作譲渡価格は物件の総合的な魅力で決まる

厨房設備や造作

解約して撤退する立場のFさんに「次に入るテナントの家賃が関係あるの?」と思われるかもしれません。

 

ところが、これが大いに関係します

 

居抜き物件の価格を決める要素は4つ。
1.飲食仕様のスペック(グリスト、ダクト有無)
2.厨房機器類の種類と新しさ
3.店舗所在地(立地)
4.賃貸借条件

 

「厨房設備・内装」の価値だけで、居抜き物件の価値が決まるのではありません

 

引き継ぎ先にとって、どれだけ価値があるか。設備以外にも重要視されるのは立地です。


ラーメン職人

このエリアの1階なら500万円出せる


穏やかそうなサラリーマン客

この駅で焼肉ができるなら700万円出す

 

このように考える出店候補がいれば、厨房など内装設備が充実していなくても高額で売却できるケースもあります。

 

今回、Fさんの物件価値を左右するのは「賃料」でした。

 

家賃が上がってしまっては物件の一番の魅力「賃料の割安感が失われ、高値で売れる可能性は激減してしまいます。

 

また造作価値を最大限に高めるために、Fさんと類似する業態の人に売却できるかどうかも肝。

似た業態であれば、使える設備も多くリフォーム費用が少なくなる分、造作価値が上がります。一方で、全く違う業態を考えている人にとっては、現状の造作設備は「無価値」と判断されかねません。

居抜き店舗の売却を成功させるために

ピンポイントで物件を売却

Fさんには事業のために借りたお金の残債がありました。

借金を清算して撤退するためには、残債以上の値段で売却する必要があります。

 

今回Fさんが希望額で売却するために、必要な条件は2つ。

 

(1)物件の魅力(低い家賃)を保つ

(2)類似業態で出店したい人に検討してもらう

 

そこで、以下のような方針で引き継ぎ先の募集をしていくことに。

 

  • 解約予告※は出さない
  • ピンポイントで購入希望者を探す

 

売却時には、Webサイトに「居抜き情報」を掲載して広く告知する方法もありますが、今回はこの手法は使えません。なぜならウェブサイト掲載には、貸主の承諾を得なければならないからです。

 

本物件は、物件の魅力(相場よりリーズナブルな賃料)を維持するため、貸主への確認を後段階に持ってきています。そこで、売却情報を表に出さず、水面下で購入希望者探しを進めていくことに。

個別紹介であれば、類似業態の方だけにご検討いただけるため、金額面でのメリットも期待できます。

 

(※解約予告とは…賃貸借契約の解約を貸主に伝えること)

カフェダイニングの経営者が買取り

出店するカフェダイニング

水面下で引き継ぎ先を募集したものの、難易度の高い譲渡取引であることは明白でした。

 

ウェブサイトに掲載せずに。

Fさんの「カフェダイニング」に近い業態で。

中央沿線で出店する人をピンポイントで探す。

 

おそらく確率を冷静に計算すれば、気が遠くなる数値が出ると思います。

 

しかし、私にはひとり心当たりがありました

3年前「カフェダイニング」を出店されたオーナーさん(Uさん)から、物件探しの依頼を受けていたのです。

 

課長っぽいサラリーマン

既存店の業績が良いため、そろそろ次の店舗を出店したい。

 

条件を整理すればするほど、Uさんにぴったり!

 

(1) 類似する業態のため、造作や設備の再利用がしやすい

(2) メニューや価格帯も近いので、既存のお客様を引き継げる可能性が高い

(3) Uさんの既存店との距離が近く、マネジメントがしやすい

 

Uさんであれば、Fさんの希望条件で検討できる可能性が高いと考え、ご紹介することに。

紹介後すぐにUさんから「すごく興味あります。内覧したいです。」というお返事をいただき、数日後、内覧にお越しいただくことに。

その内覧は、私にとってはデジャブそのもの。

 

物件を見たUさんは5年前のFさんとまったく同じリアクションをしたのです。

課長っぽいサラリーマン

コレだ!この家賃なら十分に採算が取れる!

その場ですぐに申し込みをするUさん。

FさんとUさんとの造作譲渡の条件はスムーズにまとまりました

最後に残った問題は「家賃を上げずに契約の引継ぎができるか?」という一点。

 

その点は、わたし大森からFさんに、家主さんへの話の持っていき方をアドバイス

Fさんと貸主の関係が良好なこともプラスに働き、結果的には「家賃はそのまま」という賃貸借条件を了承いただくことができました。

最大のポイントは買主・売主ともにWin-Winになる環境整備

買主・売主ともにWin-Win

「居抜き店舗売買」は業態・立地・賃貸条件など案件によってベストな進め方や落とし所は異なるもの。

 

店舗を閉めるオーナーが10人いれば、10通りの異なる事情・背景があり、出店する側のオーナー様の事情・背景もまた然りです。

 

わたしたちは、両オーナーの事情やその時々の状況を踏まえ、買主・売主Win-Winの関係で取引が成立するよう最善を尽くしています。

 

もしみなさんが「閉店」や「出店」でお困りで、かつそれぞれの事情が異なっていても、3千件の取引を通じて蓄積した当社の経験やノウハウがきっとお役に立てます。まずはお気軽にご相談ください。


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