「逆に、”職人ぽくない”のが良いのかもしれません・・・」
こう語るのは、脱サラで2017年3月に自家焙煎コーヒー店を独立開業した大和田オーナー。
飲食店開業に役立つのは「飲食業界の経験」だけ、ではない好例です。
今回は、店舗経営に営業マン経験が最大限に活かされている『永福町珈琲焙煎所 青空豆店』にインタビュー。
住宅地に開業してから1年も経たずに、順調に常連客が積みあがっている経営のコツをお伺いしました。
1日の仕事の中で、商品や焙煎のことを考えているのは半分。 それ以外は「どのようにすれば満足して買って頂けるか」を考えています
そこで役立ったのが、『どうすれば売れるか』を徹底的に考え抜くサラリーマン時代の経験。
どんなに素晴らしい商品や料理があっても、実際に体験して頂かないと、満足いただくこともなければ商売自体も成り立ちません。
特に、「未経験の業種で脱サラ開業をお考えの方」に参考いただける内容が沢山聞けました!
なぜ営業マンが、珈琲豆店で独立を思い立ったのか?
飲食と接点のなかった業界未経験の大和田オーナーが、なぜ開業に踏み切ったのでしょうか。
私が最初にお会いした時は、企業に勤める営業マン。コーヒーや飲食には全く関係ない業種の会社です。
なぜ、焙煎珈琲店のオーナーになりたいのか…そんなヒヤリングから始めたのを鮮明に覚えています。
脱サラのきっかけは、キャンプで飲んだ一杯のコーヒー
珈琲好きである大和田オーナーのもうひとつの趣味はアウトドア。営業マン時代も、週末や連休にキャンプに出かける日々を過ごしていました。
珈琲とキャンプ。
この2つの趣味が掛け合わさったとき、閃いたそうです。
キャンプ先の山の上で飲むコーヒーが、なによりも旨い!
山の上でコーヒーの良さを改めて実感し、いつかこれを職業にしたいと思うようになりました。
だからこそ店名の『青空豆店』も、キャンプが由来。
“外で飲むコーヒーがイメージできる”ことから名づけました。
ちなみに大和田オーナーご自身は雨男で、2泊3日のキャンプで全行程が晴天なことはめったになかったとのこと。
そんな願い(悔しさ?)もこめて、『青空豆店』とされたのは面白いエピソードです笑
まったくの飲食未経験。まず焙煎の知識を
飲食素人である大和田オーナーが開業のためにまず取り組んだのは、焙煎専門店で焙煎の知識を身に付けること。
焙煎機と日々格闘し、珈琲の技術を学びました。
豆の知識や焙煎・抽出など、一通りの技術が身に着いた半年後、大和田オーナーはいよいよ独立開業に向けて動きだします。
チェーン店の理論とは全く異なる出店戦略
大和田オーナーが目指すのはカフェではなく、あくまでコーヒー豆店。
その場で喫茶していただくのではなく、自家焙煎の豆を販売するお店です。
通りすがりのお客様が休憩に立ち寄るといった、チェーン店のカフェの客層や利用シーンとは大きく異なります。
焙煎のコーヒー豆店は、「コーヒー好きかつ豆にこだわる人しか来ない」業態の特性があります。
おのずと、常連客をコツコツと積み上げていくビジネススタイルを追求していくことになるのです。
大和田オーナーが選んだ立地は、住宅街ど真ん中
京王井の頭線「永福町駅」からしばらく歩いたところが、青空豆店の出店立地。
大きさは約6坪で、1-2階の物件。
駅から決して近くもなく、周囲に店舗が密集するゾーンでもありません。
もしこの記事の読者様がお店を訪れたら、店舗が周辺から「孤立」しているという印象さえ持たれるかもしれません。
では、1年ほど物件を探した大和田オーナーがなぜ、この物件に決めたのでしょうか。
そこにはコーヒー豆店の特性が大きく影響しているのです。
高額な賃料は死活問題になる
この章のはじめで少し触れましたが、コーヒー豆店は常連客を少しずつ増やしていく、いわば「顧客積み上げ式」のビジネスモデル。
オープンしたからといって、はじめから多くの売上を見込めるものではありません。
コーヒー好きのお客様ひとりひとりに気に入ってもらい、常連になっていただくのが第一です。
コーヒーは『青空豆店』じゃなきゃイヤなんだよね
こういったお客様を少しずつ増やし、時間をかけて経営を安定させていきます。
賃料の高い物件を選んでしまうと、店舗が軌道にのるまでの立ち上げ期に負荷が大きくなってしまいます。
最悪の場合、運転資金が尽きて、閉店せざるを得ない事態にもなりかねません。
今回のケースにおける、閉店リスクを減らす方法は2つ考えられます。
①立ち上げ期が長期化しても耐えられるよう、運転資金を準備する
②固定費を抑え、月々のコストを軽くする
※開業時に「どれぐらい」運転資金を準備すべきか、別記事で解説しています。運転資金の参考記事⇒飲食店の閉店は、よく赤字が原因だと「勘違い」されている。
だからこそ、物件探しで大和田オーナーが重視したのは、月々の賃料(固定費)をいかに安く抑えるか。
長く安定経営できる店を目指して住宅街に
大和田オーナーが狙っていたのは、住宅街です。
人通りが多く集客しやすい場所ほど、店舗物件の賃料は高く設定されがち。駅近くや繁華街やオフィス街の賃料が高いのは当たり前ですよね。一方、駅から離れた住宅街は、比較的手ごろな賃料の物件が多いのです。
また、繁華街と違って競合店が現れにくいのも、長く経営するためのアドバンテージ。繁華街やターミナル駅近くなどの一等立地で出店したい開業希望者と、住宅立地で出店を考える開業希望者。どちらが多いかは考えるまでもありません。
上記に加え、ご自宅から通える範囲を条件に、積極的に物件を探した大和田オーナー。当初は中央線沿いで探していましたが、なかなか賃料で折り合いがつきません。
やっと出てきた候補物件も、判断を迷った一瞬の隙に他の開業者にとられてしまいました。
こうして苦節1年、物件を探し続けることに。
永福町駅の本物件を見つけた大和田オーナーは、間髪入れずに即契約。
無事に『永福町珈琲焙煎所 青空豆店』をオープンしました。
すでに地元に根付き始めている青空豆店
焙煎された豆達が旅立つ瞬間https://t.co/u6E1Df3zeK#onlyroaster #roastery #roasters #coffeetime #fujiroyal #自家焙煎珈琲 #富士珈機 #フジローヤル #焙煎機 #青空豆店 pic.twitter.com/SiHR4ZIizy
— Only Roaster (@OnlyRoaster) 2017年6月23日
開業から約1年。
本取材で、お店にお邪魔したのはそのぐらいのタイミングでした。
近所の方から愛されるお店になってきていますね
お店に滞在していたわずかな時間でも、順調に常連客の割合が増えている様子がみてとれました。
コンスタントにお客様が来店していましたが、その会話を聞く限り、どのお客様も初来店ではない様子。
さて、今日はどれにしましょうか?
まるで古くからの知り合いのような調子です。
お仕着せではなく、お客様の好みに寄り添う
(青空豆店の顧客カード)
このお客様との対話が常連客を積み上げるポイント。
前回購入した豆をわかるようにしておき、そこから会話を広げ、お客様の好みを把握。
今日はどれにしましょうか?
前回のは良かったんですが、もう少しコクがあった方がいいな
では、同じ豆でローストを一段深いシティローストにするのはいかがですか? よりコクと甘みが出ますよ
せっかく購入した豆を気に入っても、それがどの豆だったかお客様が忘れてしまうことも。
青空豆店では、オーナーが前回購入した豆を顧客カードで把握しています。
お客様は、「前回と同じものが欲しい」「この間と全く逆なテイストを試したい」「似た系統で違うのが飲みたい」 という要望を伝えるだけで、対話しながら適切な珈琲豆を選ぶことができます。
常連客を増やしている、たったひとつの「コツ」
常連様になっていただけるコツってどんなことだと思いますか?
あまり”職人ぽくない”のがいいのかもしれません・・・
それってどういった意味でしょう?
焙煎の技術が劣っているとか、珈琲の知識が少ないという意味ではないんですが… 1日の仕事の中で、商品や焙煎のことを考えているのは半分。それ以外は、どのようにすれば買っていただけるか・満足していただけるかを考えています
確かに、どんなに素晴らしい商品や料理があっても、それを知ってもらってご来店いただかなければ商売は成り立ちません。
店舗の集客で、勘違いされがちなこと
このように考えたことはありませんか?
「何でこんなに美味しい料理を手頃な価格で食べられるのに、お客様が思ったように増えないんだろう」
私がお手伝いさせていただく中で、よく出くわす場面なんです。
商品の良さや料理の美味しさはリピート率には影響しますが、初回来店が増えるかどうかにはあまり影響を与えません。
※詳しくはこの記事にて⇒ 飲食店オープンの集客アイデア実例!「味の良さ」と「初回来店」の関係とは【D’etraison・Lupin】
まずはお店に入ってもらえなければ、商品の良さも料理の美味しさも、お客様は知ることができません。
もちろん中長期(3~5年)で考えれば、ジワジワと口コミが広がり来店数が増えることもありますが、短期間で店を立ち上げるにはこれだけでは不十分。
店舗経営には必要な要素のバランスを考え、改善していくことが不可欠。
「投資額」「コスト」「新規客」「客単価」「リピート率」など、店舗経営の重要な指標をそれぞれコントロールしていくことが、経営状況を上向かせる一番の近道。
大和田さんは「どうすれば売れるか」と営業マン時代の視点を今も持つことで、日々の経営を改善されています。
並べているコーヒーを順にお客様に説明するんですが、みなさんなぜか最後に説明したのを買われるんですよね
はじめに説明されたのより、鮮明に覚えてるからですかね?
そうかもしれません。こういう傾向があるならビンを入れ替えたり、説明を始める位置を変えるだけでまた何か変わる気がするんですよね
日々進化を続ける青空豆店
青空豆店の特徴は、3段階の焙煎具合から好みの豆を選べること。
同じ豆でも焙煎具合で風味が全く異なるそう。
100gから珈琲豆を購入できるので、1人暮らしの方も気軽に買いやすく、新鮮なコーヒーが楽しめます。
こだわりの焙煎機のお値段は、消煙機込みで250万円。
1回あたり650gのコーヒー豆を煎ることができます。
開業前の大和田オーナーは、この「650g」が心配でした。
お客様が200gばかり買っていったら、たった3名のお客で準備した分が終わってしまう…
幸い、危惧していた品不足は起こりませんでした。
まとめて200g買うより、『違う味を楽しみたい』と100gずつ2種類買っていかれる方が多いんですよね
色々な豆を試していただき、好みのものを見つけることをオススメするトークも影響しているのかもしれませんね。
ロスを出さずにお客様に喜ばれるサービスを
食品を扱う店に共通する、食材のロス問題。
「品質劣化」「消費期限」は永遠の悩みです。
コーヒー豆店も例外でもありません。
ご購入いただたお客様には、新鮮な豆で美味しいコーヒーを楽しんでほしい
余らない量を計算し、日々焙煎量を調整してきました。曜日・時間帯・天気など、その日の来店数にはさまざまなことが影響してきます。
そこでロスを出さずに、かつお客様に喜ばれるサービスは何かと考えた結果。
新しく予約販売のサービスをはじめました
※予約は電話やホームページより、注文量200g~の受付。
多めに買いたいお客様のご要望にも、お応えできるようになりました。
12月・1月とすでに少しずつ問い合わせをいただけています
ウェブから予約いただけるということは、ネット通販も可能性があるかもしれませんよね
まずはお店の経営を安定させることを最優先としながらも、今後も新たなことにチャレンジしていくご様子でした。
大和田オーナーの気づきや工夫で、進化を続ける青空豆店からこれからも目が離せません。
適切に儲けを残すための、店舗経営の「型」とは
脱サラ未経験でも飲食経験者でも、開業して経営者になったからには、「良い商品」「美味しい料理」を提供しているだけでは不十分。
「投資」「新規集客」「味の追求」「接客」「コスト管理」
経営に必要な要素を、ひとつひとつ精度を上げる必要があります。
これに真剣に取り組むことで「適切な儲け」に繋がるのです。
過去6500店舗の支援を行ってきたわたしどもは、「店も儲かっていて、早く増店したい」そんなやり手な店舗経営者との出会いも多くあります。
その方々とお話して出てきた「共通点」はなにか。
それは経営の『穴をつくらない』、これを強く意識していること。
「投資」「新規集客」「味の追求」「接客」「コスト管理」
すべてに手を抜かずにバランス良く取り組む、ということです。
どこか限られたひとつを追求しても、残りを疎かにしてしまうと、意外なダメージになります。
儲けを簡単な数式で考えてみると、その理由が分かります。
「儲け」= 「《1》投資」÷「利益」
「利益」= 「客数」×「《2》単価」×「《3》利益率」
「客数」= 「《4》新規客数」+「リピーター(新規客数×《5》リピート率)」
儲けは《1》~《5》のかけ合わせです。
つまり、何か1つを「0」にしてしまうと、儲けに大きく影響します。
逆に《1》~《5》に満遍なく力をいれることで、儲けは最大化するのです。
つまり、”儲け”を大きくするためには《1》~《5》の全てが必要となってきます。
《1》投資をいかに抑えるか
《2》客単価をいかに上げるか(適正値に)
《3》利益率をいかに高めるか
《4》新規客をいかに集めるか
《5》新規客にいかにリピートしてもらえるか
職人ではなく、経営者の視点で1つ1つを考えていきましょう。
今回の大和田オーナーはまさに”珈琲豆職人”ではなく、”店舗経営者”として上記をバランスよく考えているからこそ垂直立上げを実現されたと言えます。
飲食未経験だからこそ活かされる強み
大和田オーナーの場合、「豆の焙煎知識」に「前職の営業感覚」が絶妙に融合しています。
「つらい時だってありますよ」とおっしゃっていましたが、それも含めて楽しんでいる様子。
まだまだ、試してみたい新しい企画や施策もある大和田オーナー。
2年後、3年後にどんな話が聞けるか楽しみです。
【永福町珈琲焙煎所】青空豆店
東京都杉並区永福4-10-4
京王井の頭線「永福町駅」から徒歩4分
TEL:03-6323-3958
営業時間:10:00~19:00
定休日:火曜日
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