皆さんは『間借り出店』という言葉をご存知でしょうか。
一般に飲食店での独立開業と言えば、多額の費用を投じて物件を借りて内装や厨房を作り込み、調理器具、食器、備品等を買い揃え、保健所への許認可申請や税務署への届け出など細かい手続きを経て、多くの時間と労力をかけてゼロから立ち上げていくものですが、これに対し間借り出店というのは、内装、厨房等の設備が整い、許認可も取れてるような店舗や施設の空きスペースや空き時間を利用して営業する形態のことで、初期費用をほとんどかけずに短期間で出店することが可能です。
今回インタビューにお答えいただいたのは、そんな間借り出店を活用して、飲食ほぼ未経験から飲食経営のノウハウを学んだ後、満を持して自分のお店を立ち上げ、わずか1年で繁盛店の仲間入りを果たした「西荻窪の大分居酒屋まな愛」の名物女将真奈さん。
夢の独立開業を実現されただけではなく、2024年5月には日本の将来を担う子どもたちのために子ども食堂もスタートされた、そんな真奈さんのインタビューを通じて、間借り出店の活用方法について考えていきましょう。
(左)大分居酒屋まな愛 長門 真奈オーナー (右)開業コンサルタント 大森 智幸
(大森)2023年の7月10日にオープンした西荻窪の大分居酒屋まな愛さんのオーナーさんの真奈さんにお話をお伺いしに来ました。よろしくお願いします。
(真奈さん)よろしくお願いします。
『西荻窪居酒屋 まな愛』について
(大森)少し変わった経歴で開業されましたが、まずは、そのあたりの経緯からお伺いできればと思います。
(真奈さん)以前は5年間、ケアマネージャーっていう高齢者の方の支援をするお仕事をしていました。
月に1回、友人を呼んでホームパーティーをやっていて、そういう時間がすごく好きで、友人たちが20人とか30人来てくれて、バーベキューしたり、流しそうめんをみんなでしたり、みんな2時くらいから乾杯して、9時、10時までずっと飲んで食べて。
それで、その時、みんなが楽しいとか、おいしいって言っている笑顔を見て、笑顔って大事だなと思って、お料理もどんどん好きになっていきました。
でもコロナになって、人から笑顔が消えて、でも、食事は欠かさないものだから、自分のお料理とか接客とかで、少しでもこう、笑顔の時間を届けられたらいいなと。
それで、2021年にケアマネージャーを辞めて、飲食の道へ進み、間借り営業でカレー屋さんを始めました。
間借り出店から始める
(大森)場所は恵比寿でしたよね、思い立って、すぐに行動に移した感じですか?
(真奈さん)初めは、ちょっと友人のところでお試しでやらせていただいて、週に1回だけだったんですけど、その時に本当にこの仕事が好きかとか、大丈夫かなってことも含めて、半年ぐらいかな、ケアマネージャーやりながらやっていました。
(大森)やってみて、やっぱり楽しくやれるってことがわかってから、間借りで出店できる物件を探して。たしか、3階のお店でしたよね。
(真奈さん)3階です。
(大森)毎日営業してたんでしたっけ?
(真奈さん)毎日やってました。お昼の時間で。
(大森)集客面は結構苦労したっていう話ありましたよね。
(真奈さん)毎日外に出て、雨の日も雪の日も、呼び込みとかチラシ配りしても、コロナなのでビラも受け取ってもらえなかったりしたんですけど・・・。
(大森)近くの美容室の人でしたっけ?すごく頑張ってる姿を見て、「なんとか応援してあげたいな」って、有名なyoutubeのチャンネルに紹介してくれたんでしたっけ?
(真奈さん)とんねるずの石橋貴明さんの貴ちゃんねるずの中のコーナーで、東京アラートランっていう企画にアポなしでいきなり来て、、、夢のような世界でした。
(大森)ですよね、びっくりした様子がyoutubeで撮影されてましたね。
(真奈さん)良かったら見てください!
(大森)そこからやっぱり認知も一気に広がって、お客さんも少しついてきてって感じですね。
恵比寿の間借り出店は、どっかで区切りをつけて、その後、また別のところで間借りされてましたよね?
(真奈さん)新宿のゴールデン街で、お昼だけだとなかなか売り上げ的にもちょっと大変で、夜だけ、飲み物(お酒)も飲んでもらえるようにして、ゴールデン街のスペースを夜の7時から朝の9時まで14時間、カレー屋さんとお酒を飲んでいただけるお店を1年間やってました。
他にも借りてる方がいたので、営業は週4日から5日くらいでした。
セミナーから独立準備へ
(大森)ゴールデン街で間借り営業をしている時に、当社のセミナーに参加してもらったんですよね。
(真奈さん)やっぱり初めは「お料理好きだから」って始める方多いと思うんですけど、それだけじゃないなってことがよくわかって、セミナーに出て現実を知らされました。
それで、このままだとオープンできないなと思って、個別で面談させていただいて、何回も私「そろそろお店をオープンしたい」って、大森さんに言ったら、いや、「まだ早いです。」「まだやめた方がいいです。」って言われて、勢いとかでできるもんじゃないし、ちゃんと計画立ててやらないといけないし、家主さん用の書類(外部向けのプレゼン用資料)を作ってくださった時に、面談とかで「自分の伝えたいこと」とか「自分の性格」とかを含めて、とてもわかりやすく作ってくださったので、さすがプロだなって。
自分のできないことをすごい力になってもらったので、今こうして(お店を)出来てて、開業は終わったけど、今も継続して手伝ってもらってます。
自分のお店をオープン
(大森)西荻窪の駅から近くて比較的良い場所で、晴れて自分のお店をオープンして、まずは、周りに挨拶に行ったり、チラシ配ったり、というところからスタートされた感じですよね。
(真奈さん)元々甲子園で「売り子さん」やってたから、声を出すとかは好きで、未だに「雨の日とかお客さんが少ない時」は外に出て呼び込みをやって、八百屋さんからも応援してもらいながら(笑)
(大森)本当にこの辺ではもう知らない人がいないぐらい。
いつも大声で呼び込みやっているお姉さんというか、名物女将になってますもんね。
今来てもらってるお客さんって、「リピーターさん」と「新規さん」でいくと、大体どれぐらいの割合になってますか?
(真奈さん)6割が【常連さん】で4割が【新規さん】かな。
(大森)新規のお客さんって、どうやってこの店にたどり着いてる感じですか?
(真奈さん)やっぱりチラシ(笑)。
呼び込みとか、あとやっぱ看板を見て。
(大森)良い口コミが入ってるんで、口コミ見てっていう人も増えてきてる感じですかね。
(真奈さん)少しずつそれも。
(大森)リピーターの人はどういう理由で来てくれてる感じですか?
(真奈さん)居心地がいいって言われます。
平均滞在時間が前は「3、4時間」だったんですけど、最近「5時間」、長いと「10時間」いたりします。
お会計したけど、もうちょっと飲もうかなって。
本当お客さんが皆さん、いい方が多くて、お客さん同士が仲良くなるんですよ。で、一緒に野球見に行ったり、飲みに行ったり。本当にお客さんに恵まれてるから、こうやって今お仕事ができてるなって、すっごいそこは感じます。
(大森)内装とか、空間的な居心地の良さもあるんですけど、居心地の良さとして大きいのはやっぱり接客の部分だと思っていて、真奈さんの場合、テクニカルにそういうのを狙ってやってるわけじゃなくて、人と喋るのが好きだったりとか、お客さんが好きっていうところがダイレクトに伝わってるんだと思います。
お客さん同士が仲良くなるっていうのも、多分真奈さんがそれをうまく繋いであげてるから、真奈さんほったらかしてそのお客さん同士で喋ってるみたいなね。
やっぱりその真奈さんがいるからこそ、そういう現象が起きてると思います。
お客さんの声
(お客さん1)「学生時代の音楽仲間と集まってます!」
(お客さん2)「めちゃくちゃ美味しかった!」
(お客さんALL)「すごい楽しかった~!」
(お客さん2)「あったかくて」
(お客さん1)「望んでることを提供してくれる!」
これ食べます→「じゃあ3人前にしますね」。
くぅぅぅぅぅ~!!
(お客さん3)「超えてくるサービス!」
(お客さん2)「笑顔が最高!」
子ども食堂について
(大森)色々ありながらも徐々に売り上げも上がっていって、つい先日、1周年迎えたところですよね。今は「子ども食堂」もやられてるんですよね。
(真奈さん)5月から始めてこうやってお客さんとか友人に支えられて、今度は自分が誰かのために応援できることをしたいなって思って考えたのが、「子ども食堂」を月に1回開催して、お子さんとかお母さんたちに大分の料理をを無料で、大人500円かかっちゃうんですけど、開催してます。
それで、うちの「子ども食堂」のルールが1つあって、食事の前にみんなで地域のゴミ拾いをするっていうのを30分させていただいて、で、終わったらみんな食べようって。
(大森)社会貢献をしてもらって、美味しい食事を食べて。で、みんなでわいわいやって。
(真奈さん)第1回はフジテレビの「イット!」さんの取材で撮影に入っていただいて、8月は3回やったんです。
みんな子供たちが夏休みで、知人が「流しそうめんと生きた鮎」を寄付してくれるってことで、鮎のつかみ取りをしました。席数が12なんで大体12名で毎回開催しています。
(大森)本当に毎回みんな喜んでもらって、その証としてみんなで「寄せ書き」書いてもらって。子供食堂の活動はこれからもずっと続けていく感じですかね。
(真奈さん)正直やっぱり売り上げにはならないんですよ。でもそれ以上にすごい子供のパワーをもらったり、笑顔で食べてる姿見て「良かったな」っていう、自分のテーマに沿ってるなって感じられるので、これはもう続けていきます。
これからの展望について
(大森)これからお店としてこれから先、目標として持ってるものはありますか?
(真奈さん)今は「4つの柱」で考えています。
1つ目の柱は、支えてくれてるお客さんに還元できるように、やっぱ大分のものを味わったり楽しんでもらうために還元できるようにしたいって考えています。
2つ目の柱が、まだまだ経験が足りないところが多いので、自分を成長させてお店に活かしていって、「お客さんをもっと笑顔にしたい」ということ。
3つ目の柱が、今までお店開業するときに一緒に壁塗ったりとか、お店に友達呼んで来てくれたり、1人でも来てくれたり、友人たちに支えられてるので、招待してお食事を送ったりとか、友人の会にも参加して、「自分の楽しみを持ちたいな」って思ってて。
4つ目は、無理はしない。
今、「お昼」もやって、「夜」もやってるので、もうちょっと「休む時は休む」。そういう面で、「4つの柱」を来年から頭に置いて動いていこうかなと。
(大森)すごく素晴らしい目標だと思うので、体をしっかり労りつつ、お客さんの笑顔に包まれながら続けていってもらえればと思います。
これから開業を目指す方へ
最後に、これから開業を目指している方に、真奈さんから応援メッセージをお願いできればと思います。
(真奈さん)1番大事と思ってるのは「動くこと」。お客さんがいなくても、外に出て呼び込みしたり、新しいメニュー考えたり、仕込みしたり、sns作って配信したりとか。
でもやっぱ不安になると思うんですよね。動いてるとそれが何か繋がるって思うと、自分の安心感にもなるし、いつかまた報われる時が本当にあると思うので、とりあえず「動いて」、お客さんが笑顔になってもらえるように動くことが大事かなってすごく思います。
(大森)ほんとうに。真奈さんは楽しみながら、どんなに辛い時でも笑顔でやられてるのは、本当にすごいなと思いますね。
(真奈さん)本当にこの仕事ができてすごく幸せなんですよね。もちろん反省することや失敗すること、うまくいかないこともあるけど、改善できるじゃないですか。本当この仕事してよかったなと思うし、後悔は1個もないです。
でもやっぱり1人の力で絶対無理で、こうやって応援してくれたりとか相談させてもらえる方がいるからできてるんであって感謝しかないです。
(大森)真奈さんの「本当にまっすぐな気持ち」と、「絶対くじけないその強さ」は本当に群を抜いてると思いますよ。
(真奈さん)好きだからこそ手放したくないんですよね。だから無茶も言いますけど、これからもお願いします。
(大森)ぜひこれからも応援していきますので、これからも頑張ってください。
(真奈さん)皆さんも一緒に頑張りましょう!
大分居酒屋まな愛の店舗情報
店名:『大分居酒屋 まな愛』
業態:居酒屋
住所:167-0042 東京都杉並区西荻北3丁目20−9 三保荘 102
アクセス:JR西荻窪駅 徒歩2分
営業時間:月水木金土日 12時00分~0時00分(火曜日定休日)
※営業時間は予告なく変更になる場合があります
オープン日:2023年7月10日
インタビュー動画: 以下からインタビュー動画をご視聴頂けます
編集後記(開業コンサルタント大森から見たポイント)
今回取り上げた大分居酒屋まな愛さんは、飲食ほぼ未経験の状態から、恵比寿、新宿での間借り出店を通じて飲食経営や運営ノウハウを学び、独立開業時のリスクを下げ、スムーズな立ち上げを実現された成功事例と言えます。
多額の初期費用をかけずに実践的に飲食店経営が学べる間借り出店は、開業準備の方法論としてとても有効な手段の1つだと思いますが、実際に活用される場合にはいくつか注意いただきたいことがあります。
1つ目は、間借り出店で儲けを出すことは難しいということ。
間借り出店時の家賃に当たる出店料は、通常の家賃に比べて高く設定されてることが多く、看板や内装、営業時間も自由に設定できるわけではないため、固定客がつきにくく、安定的な売り上げ、利益を創出することがとても難しい営業形態です。
そのため、商売的には赤字になることが多く、開業資金を貯めるという目的には向いていません。
2つ目は、営業上、契約上のトラブルが起きやすいということ。同じ施設を複数の出店者が利用することになるため、使用時間やレジ金の管理、食品の管理、鍵締めや片付け、清掃などの分担をめぐって、利用者同士もしくは管理者との間でトラブルが発生しやすく、また、個人店の空き時間や定休日などを借りて出店する場合には、賃貸借契約上の違反行為に当たるケースがありますので注意が必要です。
3つ目は、間借り出店での実績が融資の判断上マイナスに影響することがあるということ。
1点目でお話ししたように、間借り出店で利益を出すということは非常に難しいのですが、間借り出店とはいえ、一経営者としてお店を経営し、その経営期間中ずっと赤字でしたという話になると、いざ独立開業するときに経営能力が低いと判断され、お金を借りにくくなる恐れがあります。
間借り出店を活用する場合には、経営経験や実践的なノウハウの蓄積、商品やサービスがお客様に受け入れられるかというプレマーケティング、 将来の見込み顧客を増やすための営業戦略など、事前にその目的を明確にしておくことが大切です。
開業準備の進め方は、これまでのご経験、資金的な状況、開業するお店の規模やコンセプト、開業の目標時期によって最適な方法は異なりますので、自分にとっての最適な方法が知りたいと思われた方は、ぜひ当社の無料セミナーや無料個別相談にお越しいただければと思います。
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